─Si太陽電池ではどんな研究をされているのでしょうか?
エネルギー基本計画2018年では,新築する公共建築について2030年までにネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)を実現するとしています。そうするとビルの壁面にシースルータイプやソリッドタイプの太陽電池を取り付けて自分で発電することが必要になるので,その研究です。また,Si太陽電池とペロブスカイト太陽電池の多接合化や,新型Si太陽電池の研究もしています。
まず壁面設置の太陽電池ですが,シースルーにする場合,結晶Siセルを短冊形に切って隙間を空けるようにな っていますが,分割すると変換効率は下がります。研究ではそれを下げずに,可視光の透過率が20%以上で変換効率は13%を保つことを目標にしています。表面再結合する割断面を被覆するなどして出力の低下を防ごうというものです。
さらに,ビルの壁面では太陽光は正面ではなく斜めから入射するので,太陽電池の吸収が悪くなります。そこで表面にマイクロプリズムのような構造を作ってうまく吸収できるようにしたり,あとはモルフォ蝶が表面構造によ って青く見えることを応用し,太陽電池表面の色調を調整して意匠性を高める研究も行なっているところです。
もうひとつは昨年度プレスリリースした新型のSi太陽電池です。今,Si 系の太陽電池で一番変換効率が高いのは, HIT太陽電池というアモルファスSiをSiの上に蒸着したものです。このアモルファスSiが高コストなので,代わりに酸化チタン(TiOx)を使えばコストが低減できます。今回我々は,TiOxがアモルファスSiの代わりになるということを世界ではじめて実証しました。TiOxがSiの表面欠陥を不活性化し,さらに,正孔を選択的に取り出す機能をもつことを世界ではじめて発見したのです。
変換効率は21%と非常に高い数値が得られています。今後はさらなる変換効率の向上や,裏面に使われているアモルフ ァスSiもTiOxにできれば,さらに低コストで良いものができます。また,構造的にペロブスカイトとの直接の多接合化も可能であることがわかっているので,今後はその研究も行なっていきます。
─多接合太陽電池はなぜ,今回のプロジェクトで期待されているのでしょうか?
現状,日本でⅢ-Ⅴ族太陽電地を製造している企業はNEDOプロジェクトでリーダーをしているシャープだけです。前述しましたように,宇宙での利用や3接合における世界最高効率といった実績があります。他には集光型太陽光発電システムに搭載されていますが,日本ではあまりメリットが無いと結論が出ています。例えば住友電工が集光型太陽電池のシステムを作っていますが,モロッコなど赤道に近い地域に設置していると思います。
そんな中,NEDOのⅢ-Ⅴ族を低コストで製造するプロジェクトで,7年前にMOVPEに代わってH-VPEを提案し,着実に変換効率を向上させ,最近ではAl系材料が成長できるようになってきたという経緯があります。量産できればさらに低コスト化が可能になるということで,去年から量産機の開発を目指したH-VPE装置の開発が新たに採用されました。
現状のH-VPEは2インチの装置ですが,今年度末から来年度にかけ,6インチの多数枚の装置を開発することになっています。これを使って変換効率がこれまでの研究炉のように上がり,Al系もうまくできれば量産装置として期待できるので,この開発は非常に重要だと思っています。
─目標に効率35%で200円/Wとありますが,いつ頃の実現を考えていますか?
まず量産機の実証が3年後です。200円/Wというのは市場の拡大も見据えた試算ですので,そのためには量産機の開発が必要です。2024年度にプロジェクトが終わるまでにはH-VPEと基板再生装置の量産型に目途が立つ予定になっています。実際に市場に出てくるのはさらに5年後とすると,2030年くらいにⅢ-Ⅴのモジュールが安くできるはずということになります。
これを達成して200円/Wが実現すれば1 kWでだいたい20万円ですが,2030年に20万円で太陽電池をEVに乗せられるかというと,利益のことも考えるとまだそこまではいかないと思います。おそらく2040年頃になると,太陽電池を載せた車がたくさん走っているというイメージだと思います。2030年に最初のものが出てくるはずですが,最初は車よりも無人飛行機で使われると思います。そこから市場が拡大して低コスト化が進み,車に搭載されると考えています。
─Si太陽電池のほうはいかがでしょうか?
シースルーのモジュールは先ほど申しましたように20 %以上光を通して,効率は13%以上。新型の太陽電池は目標というより,これからさらなる高機能化や裏面にTiOxを使ったりとすることを考えています。ペロブスカイトとSiの多接合は30%を超えた効率を目指したいと思います。
新型太陽電池はアモルファスSiの代わりにTiOxにすることによって変換効率も理論的にはHITよりも上がるはずですし,コストも下がるはずです。今,21%を超えるかなり良い変換効率を得ていますので,これからさらに変換効率を上げて,裏面も含めてTiOxにすれば,非常に大きなブレイクスルーになるんじゃないかと思っています。
─研究を進める上で光技術や製品に期待はありますか?
太陽電池のウエハー評価には,フォトルミネッセンスやエレクトロルミネッセンスによる発光測定評価がよく用いられています。低下価格で簡便,大面積に対応できるこうしたシステムがあると嬉しいですね。
今回ご紹介した成果の一部は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP20015)の結果得られたものです。関係者の皆様には深く感謝申し上げます。
(月刊OPTRONICS 2021年11月号)