産総研ゼロエミッション 国際共同研究センター(GZR)と光技術
第一回「有機系太陽電池研究チーム」

─自己紹介とペロブスカイト太陽電池について教えてください

私は桐蔭横浜大学で,界面科学の先生と,博士課程の時に富士フイルムからきた宮坂力先生の二人の先生のもとで色素増感太陽電池の研究をしていました。この太陽電池は色素が光を吸収して発電しますが,電解液が入っているので湿式太陽電池とも言われます。2005年にドクターを取った後は,色素増感太陽電池で有名な,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)Graetzel(グレッツェル)教授のもとでポスドクをしました。

その後,専任講師として桐蔭横浜大学に戻ったとき,スイスで同じくポスドクだった,オックスフォード大学のHenry Snaith(ヘンリー・スネイス)と色素増感太陽電池の研究をスタートさせました。それが2009 年です。プロジェクトの途中で私は産総研に移りましたが,その頃登場したのがペロブスカイト太陽電池です。宮坂先生のグループが,ペロブスカイトという結晶を使って太陽電池を作ったものです。

ペロブスカイト太陽電池(シースルー型)(提供:産総研)
ペロブスカイト太陽電池(シースルー型)(提供:産総研)

ペロブスカイトとは,ロシアのペロブスキーという人が見つけた結晶構造に由来します。産業ではチタン酸ジルコン酸鉛という無機のペロブスカイト結晶が医療用超音波診断装置の超音波を発生する部分に使われているほか,二次電池などでも使われているようです。我々がペロブスカイト太陽電池を有機太陽電池とするのは,太陽電池で使うペロブスカイト結晶が有機と無機の組み合わせで作られているのと,有機のホール輸送剤なども使っているからです。

色素増感太陽電池の場合,酸化チタンの粒子の表面に吸着させた色素が光を吸収して発電しますが,ペロブスカイト太陽電池はこの色素の代わりにペロブスカイトを付けたものです。開発当初は色素増感太陽電池が10%以上の変換効率が出ていたのに対し,ペロブスカイト太陽電池は4%弱でした。

その頃,私たちの色素増感太陽電池の共同研究では,オックスフォードのチームが電解液を固体化させる研究をしていました。色素増感太陽電池の課題である電解液の液漏れに対し,固体の有機物のホール輸送剤を使おうという研究です。そこにペロブスカイトを使った湿式の太陽電池が報告されたので,私たちの研究ではペロブスカイト太陽電池の固体セルを作ろうということになりました。しかし,研究室には固体の太陽電池に必要な金属の電極を作るための蒸着機が無く,ペロブスカイトの膜はできてもセルにはなりませんでした。

そこで,研究室にいたオックスフォードのドクターの学生が蒸着機のあるオックスフォードに戻って再現実験を続けた結果,高い効率が出たと聞きました。当時,固体の色素増感太陽電池の変換効率が7%くらいだったのが,ペロブスカイトにしたことで10%以上になったというのです。これをサイエンスに発表したところ話題になり,世界中で研究が盛り上がるきっかけとなりました。その後ペロブスカイト太陽電池の変換効率はどんどん上がっていき,今はシングルセルで25.5%が報告されています。さらに最近では,ヘンリー・スネイスが立ち上げたオックスフォードPVというベンチャーが,ペロブスカイトをシリコン太陽電池の上に重ねる方法で29%以上を出しています。

ペロブスカイト太陽電池は,原料のイオンに有機アミンや鉛,ハロゲンであるヨウ素や臭素を使いますが,その溶液をn 型半導体,ペロブスカイト,p 型半導体,またはその逆に基板に塗って作る太陽電池です。小さな結晶の集まりが膜になるのでひずみに強く,大きな結晶だったら簡単に割れてしまうような曲げにも対応します。塗って作れるのもポイントで,原料を塗って加熱することで基板の上で結晶ができます。

基板をポリマーのロールで流して,材料を塗って,またロールで巻き取るロール・トゥ・ロールのプロセスが使える可能性があるので,大量に短時間に作ることで低コスト化が期待されています。産総研ではこうした量産化を目指した基礎的な研究を,NEDOプロジェクトなどを通じて企業と行なったり,材料メーカーなどとも研究をしたりしています。

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