◆村上 拓郎(ムラカミ タクロウ)
(国研)産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター 有機系太陽電池研究チーム チーム長
2005年桐蔭横浜大学にて博士(工学)の学位を取得後,スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)にて博士研究員,2007年桐蔭横浜大学医用工学部専任講師を経て2011年から現在に至る。
高校生の時から光合成に興味を持ち,光エネルギー変換の研究に繋がっている。
受賞:2005年 Scientific American 50 Award(光キャパシタの創生に関する研究),2006年 第2回 Honda-Fujishima Prize(プラスチック色素増感太陽電池の研究,光キャパシタの研究)
今回から3回にわたり,産業技術総合研究所「ゼロエミッション国際共同研究センター」(Global Zero Emission Research Center:GZR)で,太陽電池および人工光合成を研究する各チームリーダーのインタビューをお届けする。
喫緊の世界的課題である気候変動問題の解決を目指し,安倍晋三前首相は2019 年10月の「グリーンイノベーションサミット」において「ゼロエミッション国際共同研究拠点」の立ち上げを表明。これを受け,産業技術総合研究所は2020 年1 月29日にGZRを設立した。GZRは世界に先駆けて革新的技術を実現していくため,最先端の研究開発を担う国内外の叡智を結集し,G20の研究者12 万人をつなぐプラットフォーム拠点として位置付けられている。
GZRでは太陽光発電や人工光合成をはじめとして,水素,カーボンリサイクル等の分野で海外の研究機関と国際共同研究を実施し,RD20(Research and Development20 for Clean Energy Technologies:クリーンエネルギー技術に関するG20各国の国立研究所等のリーダーによる国際会議)等を通じて収集した世界のプロジェクト情報の分析評価を行なうとともに,研究者,企業,投資家に開示する。
GZRには現在,「CO2 フリー電力」「CO2 フリー燃料・CO2 リサイクル」「ゼロエミッション社会制度設計・評価法」の3 つの研究グループと,その下に合計10 の研究チームがある。「CO2 フリー電力」グループによって安定供給できるようになった電力を,「CO2 フリー燃料・CO2 リサイクル」グループが容易に輸送・貯蔵できる形にし,これらが社会的に適合する技術であることを,「ゼロエミッション社会制度設計・評価法」グループが評価することで,実際に社会に適合する技術の開発を進める。
今回取材した「有機系太陽電池研究チーム」と次回の「多接合太陽電池研究チーム」は「CO2 フリー電力」のグループ,最後の「人工光合成研究チーム」は「CO2 フリー燃料・CO2リサイクル」グループにそれぞれ属する。
GZRの研究センター長は2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が務める。吉野氏はGZRがゼロエミッションの研究における国際的なハブとしての役割を期待されていることから,「まずはGZRの中で多くの研究チームがコラボレーションし,情報共有していくこと,そして日本国内,さらには海外にまで広がり大きくなっていくことで,競争ではなく,共創になっていく」と述べている。GZRでの研究が実用化し,社会実装されていく時期については,1995 年のIT革命が15 年くらいの準備期間を経て急速に動き出したことから,5年後の2025 年あたりに一気に動き出すのではないかとみており,そのとき,「乗り遅れない」ことが重要だとする。
最近では日本政府によって2020 年10 月に「2050年カーボンニュートラル宣言」,2021 年4 月には「2030年の温室効果ガス46%削減」など次々にチャレンジングなマイルストーンが示され,GZRの研究はますます注目を集めるようになっている。太陽電池も人工光合成も,日本が先頭に立って走ってきた分野だ。産業としては辛酸を舐めたこともあるが,これからは環境問題という人類共通の大きな課題に立ち向かうことになる。決して乗り遅れず,ゼロエミッションにおいて世界をリードする役割を期待したい。
第一回目は,有機系太陽電池研究チームのチーム長,村上拓郎氏にお話を伺った。日本発の技術であるペロブスカイト太陽電池は,変換効率が高いだけでなく,フレキシブルかつ塗布で製造できることから,次世代太陽電池の最右翼として世界中で激しい開発競争が行なわれている。ここではペロブスカイト太陽電池開発の現状と期待する市場などについて伺った。
かつてシリコン太陽電池で世界の先端を走った日本の産業だが,現在はコスト競争に敗れ見る影もない。その轍を踏まないためにも,産業との連携はもちろん,サプライチェーンや市場などを含めた長大な戦略が求められる。