◆末松 卓(スエマツ タカシ)
サーモカメラコンソーシアム 事務局長
富士通㈱,ソフトバンク㈱などを経て,2020年に日本コンピュータビジョン㈱に入社。
事業開発部 事業開発課 課長として,新規事業の開拓やパートナーシップを担当。
サーモカメラコンソーシアムの発起人となり,コンソーシアムの立ち上げを推進中。
コロナ禍において,人体から放射される赤外線を検出する非接触式体温計は,計測時間の短さと,装置に直接触れずに計測できて衛生的という点が受け,様々なシーンで目にするようになった。
中でも可視光カメラで人物を認識し,適切な位置を赤外線センサーで検温するサーモカメラは,不特定多数が訪れるような施設やイベントでの発熱者のスクリーニングにその威力を発揮している。
非常に便利な非接触式体温計だが,実際に使用してみると,表示される温度に違和感を感じることもある。これは,推奨されない環境下での使用や,装置の性能不足など様々な原因が考えられ,期待される性能を発揮できていないケースも多いとみられる。
こうした状況に危機感を抱いたサーモカメラメーカー3社は4月23日,「サーモカメラコンソーシアム」の立ち上げを発表した。今回,同コンソーシアムの事務局長を務める末松卓氏に,設立の経緯と目的について話を伺った。市場が混沌した様相を見せつつある現在,今後の活動が大いに注目される。
─コンソーシアム設立の経緯について教えてください
私が在籍する日本コンピュータービジョン㈱(JCV)では,新規事業の一環としてタブレット型のサーモカメラ,つまり温度検知ができるデバイスの販売を行なっていますが,その中でいろいろな課題が出てくるようになりました。これまでサーモカメラは,一部の医療現場や製造現場で使われるもので,街中で見かける機会はほとんど無かったと思います。にもかかわらず,この1年はコロナ対策に迫られる中,とりあえず入れてみようという形で使っていただいているのが現状だと考えています。
ただし本来,サーモカメラは精密機械です。例えばマスクや消毒液と同じ感覚で導入されてしまうと,どうしても我々が想定しないような使われ方をしてしまうことが起こります。特に屋外のように外気の影響を受けやすい環境だと適切な温度測定が難しいので,風や直射日光が当たらない屋内での使用が大前提としてあるのですが,そういったところが十分に認識されないまま,世の中で使われているところがあります。
具体的には,真夏の時期ですと前髪が太陽に熱せられてしまい,屋外で検温したり,屋内でも入ってすぐに検温したりすると40℃を超えてしまうことがあります。逆に寒いところだと眼鏡が冷えてしまい,すごく低い温度が出てしまうことも実際に起きています。他にも,逆光ではきちんと顔が認識できなくて検温されないといったこともあります。
こうしたことは,我々が提供している製品の不具合や性能によって起きているわけではなく,そもそも適切に使用されていないために起きているトラブルです。これは他のメーカーさんも同様で,各社がそれぞれ適切な使用方法についてアドバイスをしてきましたが,それでも製品の品質が疑われたり,製品そのものに問題があるという話になったりもします。やはり歴史が浅い製品なので,「サーモカメラというのはこういうもので,こういうふうに使うものですよ」ということを,中立的な立場で世の中に啓蒙していかないといけないと考えました。
そこで,同じくサーモカメラを扱っているアイリスオーヤマ様と,ダイワ通信様の二社にも声をかけたところ,やはり同じようなことで悩まれているというので,今回,3社でサーモカメラコンソーシアムを立ち上げようということになりました。
─ガイドライン策定のスケジュールはどうでしょうか?
まず,3社の間では確定したガイドラインのドラフトはもうできています。あとはこれをどういった位置付けでリリースしていくか,精査していくかという段階にはあるのですが,我々も3社の知見だけでガイドラインを策定してしまうのは問題があると考えていますので,現在,位置付け的には0.1版という形にしています。
これをもとに,今後,賛同企業を広く募っていきながら,あるいは大学の先生や弁護士といった有識者の方々にも入 っていただいて精査しながら,第1版を出そうとしています。ただし,賛同企業や有識者の方々に参加いただけるタイミングもあるので,まだ明確なスケジュールは決めていません。
─こうした機器は標準化も大切になります
今,経産省とも何度かやり取りをさせていただいていて,ガイドラインの規格化とともに,最終的には例えばJISやJSAのように公的な規格化をするところは視野には入れています。ただ,こうした規格化となるとどうしてもハードルが高い部分も出てくるので,コロナ禍においてガイドラインを少しでも早く世に出したいという今のタイミングでは,規格化を視野には入れつつ,まずはなるべく早いガイドラインのリリースを目指したいと思 っています。