─サーモカメラの問題として他にどんなものがありますか?
一番多く声が上がるのは,先ほど言ったような真夏あるいは真冬の環境下における検温の異常ですが,それとは別に,特に大きな企業様からもお問い合わせをいただくのが個人情報の扱いです。我々のデバイスは基本的にカメラを使って来場者の顔から額の位置を認識し,温度をサーモカメラで測ります。
ですので,額や手首に近付けて測るハンディの非接触体温計と本質的に違う点として,顔情報を取得するということがあります。例えばシ ョッピングモールにちょっと立ち寄っただけで顔を撮られてしまい,その情報がどうなるかというお客様側からの不安もありますし,運営者側からも,そうした情報の扱いについて戸惑いの声が上がってきます。
我々コンソーシアムとしても,その顔情報といった個人情報をどう扱うべきか,あるいはお客様にどう案内するべきか,といったところも,ガイドラインとして出していく予定です。
例えばお客様に「誰がどんな目的で撮 っていて,データは目的以外には一切使用しません」といった案内を出すのは必要なことですし,運営側もデータを個人情報として適切に扱い,使用後は速やかに破棄することも大切です。
弁護士の方とも相談しているのですが,そもそも体温を測るために取得する顔情報が個人情報に該当するのかどうかでさえ,明確に定義として固まっていない状況です。まだ市場自体が未成熟なこともあって,こうしたことは各メーカーが個別に自己判断で取り扱っているのが現状です。こうしたところを標準化して,「我々の製品はコンソーシアムが提示したガイドラインに従って適切に個人情報を扱っているので,安心してお使いください」と言えるようにするのも,やりたいことの一つです。
─測定方法と個人情報の問題がありましたが,ガイドラインには他にも含まれてくるものはありますか?
ガイドラインには全部で3つの柱があって,もう一つは品質の問題です。サーモカメラの市場はこの一年間くらいで急速に大きくなったので,品質が不十分でもとりあえず輸入されて売られる製品もあります。もちろん価格が安いのは魅力かもしれませんが,そのぶん性能や品質は玉石混交の状況にあります。
例えば洗濯機や冷蔵庫ならユーザーも見る目を持っているので,「これは安い分品質もその程度なのは仕方ない」といった判断ができますが,サーモカメラは市場が若くて未成熟なだけに,とりあえず目の前に広告が出たものを買う,といったことも起きています。こうして「安かったから買ったけど使えない」となったとき,その製品だけではなく,サーモカメラという装置全てが否定されてしまうような事態を避けたいと考えています。
そのためにも我々は,どのパラメータを見たら性能が適切に判断できるのかというところを明確にしたいと思 っています。いくつかあるパラメータのうち,何をどう比較すれば自分たちにとって適切な製品が選択できるのか,という選定です。そうなれば何社か横並びで比較したとき,例えば精度が高いところを選ぼうとか,適切な測定距離が確保できるところを選ぼうといったことができるようになります。
あとは第三者機関などを使って,そのパラメータを公平かつ中立に測定する環境の提供もしたいと思っています。いわゆる自社調べで「精度は±0.1℃と非常に高いです」とあっても,自分に都合のいい測り方で数字を出しているケースもあるので,公平な基準で測ると誤差が実は±0.5℃となるかもしれません。測定距離も遠くまで対応できた方がユーザーもうれしいので,「5 mや10 m離れても検温できます」と言われると,そっちのほうがいいとなってしまいますが,実際にその距離で正しい測定ができるかというと難しいと思います。あとは動作環境温度といったパラメータも必要です。
つまり,比較するべきパラメータの選定と,そのパラメータを公正に中立的に評価するための環境の提供というところまでしたいと思っています。正しい使い方,個人情報の適切な取扱い,そして機器の選定基準。この3つについてガイドラインや環境の提供をしていくとともに,将来は機器として正しい公正な方法で測定したことを証明する,認定証のようなものも出したいと考えています。