ミニインタビュー
髙谷先生に聞く
光と計算の融合で切り拓く新しい撮像の可能性

─研究を始めたきっかけを教えてください。
(髙谷)私自身が企業で研究開発を経験し,情報処理推進機構(IPA)の未踏事業に採択された際,必ずしも高度な技術だけがビジネスで成功するわけではなく,学術研究と社会実装の間には大きなギャップがあることを実感しました。今回,筑波大学とJSTの枠組みで基盤技術を社会実装するための予算を獲得できたことを契機に,既存の基盤技術を社会に応用する道を探ることになりました。
─この研究の面白さを教えてください。
(髙谷)この研究は,ソフトウェアとハードウェアを融合させる点に特徴があります。光を変調して情報を符号化し,そのデータを計算機で解析することで復号する仕組みです。さらに,新たに導入したイベントカメラは従来型カメラと異なり,内部にアナログ回路,特に差分回路を実装しています。この特性を活かし,微分撮像系として再定義することで,新しい撮像の可能性を開いた点が研究の大きな面白さとなっています。
─研究している中で苦労していることはありますか。
(髙谷)研究の最大の課題は学生の確保です。筑波大学では助教でも独自の研究室を持てる一方で,教員数に比例して研究室が乱立し,学生の奪い合いが生じやすい状況です。さらに博士課程へ進学する学生が少なく,人材の確保は難しい現実があります。
─この研究がどのように応用されることを期待していますか。
(髙谷)この研究の目的は,従来は目視や職人の経験に頼らざるを得なかった外観検査を自動化することにあります。人の目でしか対応できなかった検査を少しでも置き換えることができれば,大きな成果になると考えています。日本の製造業は長らく熟練工の感覚に支えられてきましたが,そこにデジタル技術を導入することで,ものづくりの新しい形に貢献したいと考えています。
─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。
(髙谷)若手研究者の環境は全体的に改善傾向にあります。大学と企業の間で人材の流動が進み,キャリアの選択肢が広がっています。中堅層の支援や40歳未満向けの研究予算,スタートアップ支援制度も増え,挑戦できる場が整いつつあります。一方で大学の若手教員は資金不足に直面しつつ学生対応の業務が増え,研究時間が削られてしまう課題もあります。
─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。
(髙谷)学生時代は,自分のやりたい研究テーマを進める大きなチャンスです。たとえ誰かの研究室に所属していても,自分で予算を獲得し,主体的に研究を進める意識を持つことが重要だと思います。若手研究者も同様に,自ら資金を確保して独自の研究を行なう姿勢を持つことが大事だと思います。
(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)
タカタニ ツヨシ
所属:筑波大学 システム情報系 助教
略歴:1988年生。博士(工学)。大阪大学基礎工学部情報科学科卒業。大阪大学大学院情報科学研究科博士前期課程修了。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。㈱東芝・研究開発センター(研究主事),国立情報学研究所・コンテンツ科学研究系(特任研究員)を経て,2021年より筑波大学・システム情報系(助教)にて計算撮像研究室を主宰。コンピュータビジョンおよびグラフィクスの基礎研究および実用化に従事。
趣味:週1回のボルダリング(目標はロッククライミング)
(月刊OPTRONICS 2025年11月号)