1.3 地下宇宙素粒子実験
宇宙の歴史・物質起源を探るため地下実験施設において宇宙ニュートリノ観測,暗黒物質直接探索,そしてニュートリノレス二重ベータ崩壊探索実験が展開されている。これらの検出器は共通して,極限まで放射能不純物が少ない材質の使用,巨大な検出器,そして長期間の観測が要求されている。
スーパーカミオカンデは,岐阜県飛騨市の神岡地下施設に建設された5万トンの超純水で満たされた検出器である5)。1996年から開始され現在まで観測が継続されている。そこでは,超新星爆発起源のニュートリノ探索,太陽ニュートリノ,大気ニュートリノ観測,そして陽子崩壊の探索などの研究が展開されている6〜8)。2020年に,硫酸ガドリニウムを投入して反電子ニュートリノの検出感度を向上し,予言された超新星背景ニュートリノ理論を検証した9)。
カムランドは,東北大学ニュートリノセンターが主導している同じく神岡地下施設に建造されている液体シンチレータ検出器である。原子炉ニュートリノや地球ニュートリノの観測で成果を上げ,さらに近年,キセノンにおける二重ベータ崩壊探索では最も感度の高い結果を報告した10)。これによって,ニュートリノのマヨラナ性を検証し,ニュートリノ質量階層性の謎に迫ろうとしている。
ゼノン(XENON)実験は,イタリアのグラン・サッソ国立研究所の地下施設に建設された液体キセノン検出器を用いて暗黒物質を直接探索している。暗黒物質は,宇宙を構成する要素の27%を占めていると考えられ,従来の宇宙理論に暗黒物質を導入するとこれまでの観測結果をよく説明できるため支持されている。ただし,暗黒物質の正体は不明である。XENON実験グループは,液体キセノンの不純物を極限まで排除し,暗黒物質探索の最前線を牽引している11)。
共通して感度を制限する背景事象は,検出器材料に含まれる内部放射能不純物および実験環境中から飛来する放射線である。さらに感度を向上するために基礎となる材料純化技術,分析技術を発展する必要がある。
2. アルファ線分析装置
多くの分析技術がある中で,本稿では筆者が注力している“表面アルファ線イメージ分析技術”を紹介したい。
2.1 TPC技術に基づいたアルファ線イメージ分析装置
筆者らが開発したアルファ線イメージ分析装置を図1に示す12)。この装置は,四フッ化炭素ガス0.2気圧で満たしたガス検出器で,サンプル表面から発生したアルファ線の3次元飛跡情報を記録することで,表面汚染分布が得られる。

以下にアルファ線飛跡検出過程を示す。
5.これにより,3次元飛跡情報として記録される。この技術をTime-projection Chamber(TPC)と呼ぶ。
この技術に基づいて地下実験領域共同研究者の試料分析を,2018年からこれまで検出限界3×10–3 a/cm2/hr(90%CL)の感度で継続してきた。