ガスTPCと光検出に基づく高感度アルファ線イメージ分析

著者: 伊藤 博士

1. 導入

1.1 アルファ線

アルファ線は放射線の一種でヘリウム原子核である。空気中で数cm飛び,紙一枚で遮蔽される特徴を持つ。2価の電荷をもつ。それらの性質より普段実感はしないが,身近で多くの分野で利用されている。

半導体製造の分野では,放射能不純物の含有量を材料表面から放射される微弱なアルファ線を検知することで品質評価をおこなってきた。医療では,アルファ線による癌治療が注目されている。実用化に向けて創薬研究が進んでいる。正常組織への被曝を最小限にするため,治療薬は低侵襲である必要があり低放射能が要求される。一方,空気中にはラドンが100 Bq/m3程度含まれており,我々は呼吸を通して被曝している。ただし,我々が生活する上で致命的な被曝ではなく自然放射能として認知されている。しかし,地下宇宙素粒子実験では,極めて稀な事象を探索するためこの微量のラドンの影響が致命的である。さらに検出器に用いる材料も不純物を極限まで排除する必要がある。

ここで,アルファ線放出量を測定する上で重要な単位を紹介したい。基本的に表面汚染分析であるため,単位時間(hr)あたり,単位面積(cm2)あたりにアルファ線が何個放出するかとして,放出量の単位をα/cm2/hrとする*。

* 装置の仕様にcount/cm2/hrと記載されていることをよく目にするが,これは計測頻度を表しており,アルファ線放出量ではない。実際には,この値に検出効率の逆数を乗算等して,アルファ線放出量に変換する必要がある。

1.2 半導体材料の品質評価

放射線は,半導体集積回路の一時故障の要因のひとつである。放射線による電離作用によって,キャリアが生成され,キャパシタに蓄積し,結果としてファイル破損や誤動作を引き起こす。これを「ソフトエラー」とよぶ。

最初のソフトエラーの報告は1975年に人工衛星で発生した不具合である1)。宇宙線である陽子や重粒子の被曝が原因で,現在も重要な課題である。地上で最初の報告は1978年である。パッケージの材料であるプラスチック表面から放射されたアルファ線によってDRAMの保持データが反転した2)。材料に含まれる微量のウラン・トリウムがアルファ線を放出していることが確認された。

半導体製造規格であるJEDEC3)によると,材料表面から放出されるアルファ線は0.01α/cm2/hr未満が規定され,主にはんだ,モール材,ソルダーレジストなど材料の品質管理が徹底されている。

次世代半導体では,配線が密になり閾値電荷を低くする傾向であるため放射線によるソフトエラー頻度が増加すると考えられる。ただし,ソフトエラーが起きても復元可能にする冗長回路などの技術4)を用いれば対応はできる。一方で,細密化し並列演算効率を向上したのに,材料品質を手抜くことで性能を最大限発揮できないことは許容したくない。そのため,今後も品質管理としてのアルファ線分析は重要であるが,さらに高感度な分析も必要になってくるだろう。

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