高出力半導体テラヘルツ信号源とその応用

著者: 鈴木 左文

3. レーダーイメージング応用への展開

前述したように,テラヘルツの透過性を利用したイメージングはセキュリティ用途に有用であり,国際電気通信連合ITU-Rにおいて275−700 GHzの利用について議題提案などが現在行われている。例えば改札などでウォークスルー型の透過イメージングを行い,隠蔽された危険物を特定することが可能になると考えられる。さらに,距離測定を組み合わせたレーダーイメージングに拡張すれば,物体認識精度の格段の向上が見込める。波長が短く分解能が高い高周波を他の電子デバイスよりも容易に発生可能なRTD発振器はこれらの応用に適している。

我々はRTD発振器を用いたレーダーイメージングシステムとして,振幅変調を基礎とした複数の方式を提案している。レーダーシステムの概要を図4に示す。まずは,基本となる振幅変調連続波方式(AMCW)から紹介していく。AMCW方式では,RTDのTHz出力は信号源からの変調信号で強度変調され放射される。対象物にあたり反射された信号は受信器によって復調される。この復調信号と参照信号の位相差が飛行時間(ToF)に対応するため距離の計測が可能となる。変調周波数を2つ切り替えることで絶対的な距離を算出でき,5 GHzと5.5 GHzの信号で変調した場合は誤差0.06 mmで測定できている40, 41)。さらに,ターゲットを置いたステージを2Dスキャンすることで詳細な3次元像も得られている。660 GHzの比較的高い周波数を用いることで0.56 mm程度の横方向分解能が得られ,また,高さ方向誤差は0.02 mmであった42)

図4 振幅変調をベースとした距離計測システム
図4 振幅変調をベースとした距離計測システム

上記のAMCW方式では,重なった2つのターゲットを分離測定することは出来ないが,周波数変調連続波(FMCW)方式のように変調周波数を時間的に動かしたサブキャリアFMCW方式では分離測定が可能である43)。任意波形発生装置によって生成したチャープ信号で同様にRTDの出力を変調し,ターゲットで反射され戻ってきたTHz信号を復調後,参照信号とミキシングすることでToF分のズレを差周波のIF信号として取り出すことができる。周波数511 GHzのRTD発振器を用い,3.5−10.5 GHzのチャープ信号を使った場合,2つのターゲットをそれぞれ誤差約1 mmで分離して測定ができる44)。測定はミリ秒間隔であるが,高速なFPGAを用いることでマイクロ秒まで高速化と期待される。THzビームはガルバノミラーによって掃引ができ45),3次元的な距離計測もできる。さらに,RTDデバイスのフェーズドアレイが実現されればメカニカルスキャンなしで3次元像を得ることが可能になる。

4. まとめ

我々の,ごく最近のRTD発振器高出力化の取り組みについて紹介し,また,発振器を用いたレーダーイメージング応用について概説した。THz帯の応用はまだ一般に広がってはいないが,THz帯の電子デバイス技術は着実に進歩している。THzでは応用と研究開発で鶏が先か卵が先かの議論が頻繁に見受けられるが,地道な研究開発で多くの人が手軽にデバイスを利用することが出来れば,長年の研究で固まってしまったTHz研究者の先入観を覆すような思わぬ応用が見つかるかもしれない。RTDは特に他の電子デバイスには難しい高周波が容易に得られ,出力・電力密度にすぐれている。企業によるデバイス開発も進んでいるため,RTDデバイスを手軽に使える日はそう遠くなく,広く利用が進むことを願っている。

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