力を光に変換:応力発光を用いた応力分布可視化技術

図4  動的荷重分布計測システムの概要,足裏荷重分布のイメージングとその時間変化
図4  動的荷重分布計測システムの概要,足裏荷重分布のイメージングとその時間変化

4. 足裏の動的圧力分布計測

応力発光体と樹脂から構成される応力発光塗膜シート(応力発光フィルム)は,上述のように構造物表面に固定化することでひずみ分布を可視化できる。一方,応力発光フィルムを指で押す,引っ掻く,擦るなどの荷重も応力発光として可視化できる。例えば,物体と床面との力作用(床反力)を広い範囲かつ高XY空間分解能で動的に計測できれば,運動メカニズム解明を支援する技術となる。本項では,力の作用やモーション解析が重要な知見を与える人間工学やロボット工学の研究に対して,応力発光が提供する情報について紹介する。

図4には,足裏の動的圧力分布を評価したシステムと応力発光結果を示す。直感的に,人間が応力発光フィルムを踏みつけたときの足形(約700 N)を可視化できていることがわかる。さらに,応力発光強度を詳しく観察してみると,体重移動に応じて足裏の各部分が局所的に変化している。各点の時間解析は,人間の姿勢や動きによってどの部位が荷重分担しているかを鮮明に観察できる。この実験の場合,初期は親指よりも小指が荷重分担し,かかとへの荷重移動により小指の荷重負荷が低下していると考察できる。応力発光画像の空間分解能は応力発光粒子の大きさ,時間分解能は材料内キャリア移動速度に依存するため,原理上では更なる高空間分解能・高速計測を実現できる。しかし,実際は空間分解能が撮影カメラの画素数,時間分解能が撮影速度に依存する。すなわち,微小対象や高速現象にあわせた計測機器を選定することで,より高い空間分解能かつ高レートで荷重分布計測を実現できる。

以上のように,応力発光フィルムを荷重イメージング技術とすることで,高空間分解能を保ったまま局所的な圧力変化を計測できる。ただし,動物などの比較的大きな生物の行動解析は,グリッド状金属細線の接触抵抗変化を利用した圧力分布計測によっても実現可能であるが,昆虫などの小さな生物の行動解析は,荷重検出限界により代替技術の研究開発が求められている。現在,高感度応力発光フィルムの研究開発と計測システム開発に着手し,昆虫などの小さな生物の動きを可視化する技術開発を進めている。

5. おわりに

 本稿では,応力発光技術について,応力発光体,応力発光センサ,適用事例を紹介した。応力発光体は,材料の結晶歪みによって誘起されるキャリア移動を起点に,力を光に変化するおもしろい特徴を有している。そのため,高発光強度,発光多色化,メカニズム解明などの材料研究から光技術への応用研究まで一環とした研究開発が世界で進められている。光を計測する観点から適用できる場所が限定されるなどの課題もあるが,今後の研究開発において,技術課題を解決しながらも新しい原理,応用を追求し,より多くの分野において我々の技術を役立てられたらと願う。

謝辞

本稿で紹介した研究は,共同研究者の協力のもと実現したものである。本研究を遂行するにあたり,ともに実験・議論をしてくださった(国研)産業技術総合研究所 応力発光技術チーム 徐超男氏,寺崎正氏,及び研究チ ームの皆さまには心より感謝いたします。本研究の一部は,福岡水素エネルギー戦略会議 製品開発支援事業,JST A-STEP(産学共同(育成型)JPMJTR20RL,A-STEPトライアウトJPMJTM20H3),JSPS科研費(22H01786),総合科学技術・イノベーション会議 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「構造物の状態を高度可視化するハイブリッド応力発光材料の研究開発」の支援を受けたものである。

参考文献
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■Mechano-Optical Conversion: Visualization of Stress Distribution by Mechanoluminescence
■Yuki Fujio

■Senior Researcher, Sensing System Research Center,National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)

フジオ ユウキ
所属:(国研)産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域 センシングシステム研究センター 主任研究員

(月刊OPTRONICS 2022年7月号)

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