真空紫外光による光加工技術の新展開

1. はじめに

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MEMSや半導体集積回路など,最先端デバイスの製造プロセスでは,フォトリソグラフィーやレーザーアブレーションに代表される,様々な光加工プロセスが中心的な役割を担ってきた。これらの加工法における最小加工サイズは光の回折限界の制約を受けるため,光源の短波長化がデバイスの小型化や集積化,すなわち高性能化のキーとなることから,光源開発が大きな技術課題の1つとなってきた。

過去数十年に渡る短波長光源開発の歴史の中で,水銀ランプのg線やi線の活用に始まり,現在は波長157 nmのF2レーザーを利用したリソグラフィー技術が実用化されるに至っているが,これより短い波長の光である極端紫外(EUV)の開発は難航を極めており,大きな技術課題となっている。このような,主に光の波としての性質が重要となる微細化の流れの一方で,波動性を問題としない,所謂,光の粒子性を主に用いた新しい加工技術も登場しつつある。

例えば,波長172 nmのXeエキシマ光を利用した真空紫外光による光化学的なクリーニング手法が,広くフラットパネルディスプレイのクリーニングプロセスに導入されて久しい。主要な光源として用いられている誘電体バリア方式のランプは,インコヒーレントな光源であり,主に光のエネルギーのみを活用した方法と言えよう。我々は,このような新しい光加工技術の開発に,基礎から応用まで一気通貫に取り組んでいる。

本稿では,我々の取り組みの中から,真空紫外光による光表面処理,光接着,印刷プロセスと融合した印刷可能なガラス製ナノ構造への応用などを紹介することで,光の新たな利活用の一旦をご紹介したい。

2. 真空紫外光による加工の原理

図1 VUV光による表面改質
図1 VUV光による表面改質

紫外光(UV光)や真空紫外光(VUV光)による光化学反応と,そのクリーニングプロセスへの応用に関しては,既に多くの解説があるので詳細はそちらに譲るとして1〜3),ここでは簡単に,光接着の作用機序に係るVUV光の照射に伴う光化学反応を紹介する。図1は,VUV照射によるクリーニングプロセスを模式的に示したものである。従来,低圧水銀ランプを光源とした185 nmと254 nmの紫外線を用いて,これら紫外線の酸素に対する吸収によりオゾンや励起状態酸素などのいわゆる活性酸素種を発生させ,これら活性酸素種による酸化と,紫外線の直接吸収による分子結合の切断効果によって,有機物を酸化分解させる光洗浄(UV/03洗浄)が用いられてきた。

これに対し,例えば波長172 nmの真空紫外光は,酸素に対する吸収係数が185 nm光に較べて約20倍も高い上,酸化力の高い活性酸素種をより効率的に生成できる特徴を有しており,さらに,高い光子エネルギーによる直接的な分解効果も高くなる。以上,3つの相乗効果により従来の低圧水銀ランプよりも高い洗浄効果が得られることから,現在は光洗浄法の主流となっている。このようなVUV光の照射に伴う直接的(光子エネルギー),間接的(活性酸素種)な光化学反応により,後述の様々な表面処理効果と接着効果が得られる。

ただし,以下に説明する光接着に関しては,少なくとも我々の研究ではUV光では確認されておらず,VUV光が必須となっていることから,接着には真空紫外光が持つ光子のエネルギーが重要な役割を担っているものと考えている。従って,本稿では詳細には触れないが,材料の分子結合に応じた波長の最適化と光源開発が重要な技術課題となってくると考えられる。

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