新しいレーザー

ところで,可視から紫外の波長域における光を出そうとすれば,原子に束縛されている電子の状態を変えることが必要です。電子が原子の中で,高いエネルギー状態から低い状態に変化するときに,そのエネルギー差に相当する波長の光を出します。原子に束縛されている電子でも,できるだけ原子核から遠い電子の方が変化しやすいのは当然のことです。

このような状態の変化に伴うエネルギーの変化は,ちょうど可視から紫外の光の波長に相当します。ところで,原子の中でもっと原子核に近い,言い方を変えればエネルギーの高い状態の問で変化させれば,もっと短い波長の光(電磁波)に対応することになるのです。

一方,水素とかヘリウムなどの軽い原子の場合は,原子核の力が弱いので,高いエネルギーの電子は存在しません。原子は重ければ重いほど,高いエネルギーを持つ電子が存在するのです。水素と比べると,セレンとか銀などの原子番号の大きな原子の方が高エネルギー電子状態を含んでいます。

このような原子核に近い高エネルギーの電子を内殻電子と呼んでいます。内殻電子は原子核から強い力で引きつけられていますので,それを引き離すためには大きな力,すなわち大きなエネルギーが必要になります。


図2
図2

例として,図2にセレン(Se)の電子状態が描いてあります。真ん中に原子核があって,まわりの電子を引きつけており,原子をつくっています。Se原子の原子番号が34ですので,34個の電子を持っています。34個の電子を引きつけているのですから,原子核は+34の電荷を持っています。この数が大きいほど,力が強いことになります。

例えば,Se原子にエネルギーを与えて内殻にある電子を原子の外に飛び出きせたとしましょう。すると,電子の穴ができます。外側の電子がこの穴に落ち込むとき,そのエネルキー差に相当する電磁波が出ます。できた穴が高いエネルギーの状態ですので,落ち込んできた電子も大きなエネルギーを放出することになって,光よりもはるかに短い波長の電磁波をだすことになります。これがX線の発生原理です。このようにお話しすると,光もX線も同じ電磁波の仲間であることがお分かり頂けると思います。

X線の発生についてはお分かりいただけたことと思います。これをレーザーにするためには,他のレーザーと同じく反転分布が必要です。しかしながら,これが実に難しいのです。内殻電子を上の準位に上げるためには非常に大きなエネルギーが必要なのです。

したがって,極めて短時間に大変高いピークパワーでポンピングしなければなりません。場合によっては,ほとんど全部の電子を原子から開放することになります。丸裸の原子を作って,電子が再び内殻にまで落ちてくるのを待つのです。そして,内殻のエネルギー準位間で反転分布を作ります。

1 ns(10–9秒)の短い時間にl兆ワット(1012 W=1 TW(テラワット))のレーザーパルスを金属薄膜ターゲットに照射します。このような高いパルスが金属に当たると,金属の原子を蒸発させるだけでなく,原子からほとんどすべての電子を原子核の束縛から解き放し,裸に近い状態の原子を作ることができるのです。温度が上昇し,原子核の周りを回っていた電子が原子から離れて,陽イオンと電子に分かれます。この現象が電離です。そして,電離によって生じた荷電粒子を含む気体をプラズマと呼んでいます。


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