ここ数年来,国政選挙では与野党ともに,目玉となる政策は経済対策が中心であった。今回の参院選でもこの傾向は変わらず,先端科学への投資や海外との連携といった政策が,各党の公約や議論の俎上にほとんど上らなかったのは残念と言うほかない。
核融合や量子技術といった最先端分野の科学の進展には,国境を越えた協力が不可欠だ。世界情勢が混とんとする中で,日本がこれらの技術をいかなる国際的枠組みのもとで推進していくのか,極めて難しいかじ取りが求められている。
日本と欧州はITER計画をはじめ,量子技術でも国際連携を深め,技術と人材の共有を通じて発展を遂げてきた。今年に入ってからも量子分野でEUとの協力強化に向けた意向表明書を交わし,デンマークや英国とも協力覚書を締結している。さらに英国とは核融合分野においても技術開発協力の覚書を結び,日本は欧州と緊密な連携を進める方針を示している。こうした協調体制は,若手研究者の育成や標準化の推進にも不可欠だ。

一方で,中国の台頭も見逃せない。量子通信衛星「墨子号」による量子鍵配送の成功,実用化が視野に入る核融合炉建設計画(CFETR)の推進,巨大レーザー核融合施設の建設など,量子・核融合分野で論文数,人材の両面において存在感を高め,今や多くの最先端科学分野で世界のトップに立っている。
加えて,米国の現状も注視が必要だ。トランプ政権下で進んだ科学軽視の姿勢,移民規制の強化,研究資金の削減は,多くの有能な研究者を国外へ流出させる結果を招いた。かつて世界中の頭脳を集めた米国が,高度人材の受け入れ国としての信頼を揺るがせているのは深刻な問題であり,この動きが中国や欧州への人材流入を促し,量子・核融合分野の国際勢力図にも影響を与えている。
こうした現状を踏まえ,「オープンサイエンス」を堅持しつつ,透明性と公正なルールに基づく協力体制を築く姿勢が日本には求められる。巨額の研究予算を投じることが難しい日本にとって,中国との共同研究は特に基礎研究分野で貴重な機会であり,これを一律に拒絶することは技術進歩の停滞を招きかねない。
ただし,最先端科学技術には安全保障・経済安全保障上のリスクが常につきまとう。無制限な技術共有は避け,輸出管理規制や知的財産の保護を徹底しつつ協力範囲を明確化し,軍事転用リスクの高い分野では共同研究テーマの慎重な選別が不可欠である。日本が目指すべきは,持続可能な社会の実現と技術の公平な発展だ。
そのためには協力の扉を閉ざさず,守るべきものを守る体制を整えつつ歩みを進める必要がある。米国で科学の価値が揺らぐ今だからこそ,日本は国際協調の場で信頼される技術立国として自立した姿勢を保ち,国際協力の旗を掲げ続けることが重要だ。
多大な資金・人材・時間を要する最先端分野の研究は一国だけで完結できるものではない。量子・核融合分野の未来を切り拓く鍵は,科学政策における研ぎ澄まされたバランス感覚にある。日本経済の再興,安全保障の強化を図るためにも,政府には複雑怪奇な世界情勢を的確に見極める力が求められている。