【解説】光デバイスの小型・軽量化がサイボーグ昆虫を実用化する

著者: sugi

「サイボーグ昆虫」の研究が進められている。サイボーグ昆虫とは昆虫の体に電極を取り付け,電気刺激によってその行動を制御する技術。遠隔から電波によってその動きを意のままにコントロールしようというものだ。

近年のロボットの性能向上は目覚ましいが,それでも昆虫をサイボーグ化することによって,現在の小型ロボットをはるかに上回る機動性とスピード,持続力を得ることができる。各種センサーを登載すれば,これまでファイバースコープでしか調査できなかったような隙間に侵入させて調査が可能になることから,災害時のがれきの下の生存者探索や環境モニタリングなどへの応用に期待がかかっている。

日本の大学や研究機関をはじめ,サイボーグ昆虫の研究でリードするシンガポール南洋工科大学の佐藤裕崇教授は,ベースとなる昆虫にマダガスカルゴキブリを利用している。このゴキブリは体長が約6cmと大きく,寿命も2~5年と長いことからサイボーグ化に適している。見た目はそれなりに似ているものの,日本にいる種とは異なり,森林で暮らすため衛生リスクが少なく,飼育も清潔な環境でできるという。

サイボーグ昆虫には赤外線センサーやカメラといったセンサー類のほか,通信用のデバイス,バッテリー,制御回路などが搭載される。中でもバッテリーは,その大型化がサイボーグ昆虫の行動範囲を広げる一方で,運動能力を阻害する要因ともなる。そこで理研では電源として有機太陽電池をマダガスカルゴキブリの背中側に取り付ける実験を行ない,30分の疑似太陽光照射でゴキブリを制御する刺激電極を2分間動作させることに成功した。

また大阪大学は,電気刺激に代わって紫外線による昆虫のコントロールを提唱している。これは電気刺激を繰り返すことで昆虫が刺激に慣れてしまうことと,感覚器官へのダメージを避けることを目的としたもので,昆虫が紫外線に対して避けるように行動する負の走光性を活用する。研究ではマダガスカルゴキブリの複眼に紫外線を照射するUV-LEDヘルメットを装着し,進行方向を自在に制御することに成功している。

実用面では佐藤裕崇教授の研究グループが3月,ミャンマーで発生したマグニチュード7.7の地震において,捜索活動に10体のサイボーグ昆虫をはじめて投入した。被災者の発見には至らなかったものの,これまでの技術では難しかった複雑で入り組んだ倒壊構造物内での探索と迅速な調査が可能であることを実証,サイボーグ昆虫が既に実用化の段階に入りつつある事を示した。

さらに同教授の研究グループは,JSTムーンショット型研究開発事業において,サイボーグ昆虫の量産化技術も開発。AIと画像認識技術を組み合わせたロボットアームによる自動組立システムにより,マダガスカルゴキブリの背中に電子デバイスを取り付ける作業を完全自動化した。1体あたり約1分という速さで安定した装着を実現し,従来の手作業に比べて約60倍の高速化に成功している。

サイボーグ昆虫に求められる光技術はより小型・軽量・低消費電力なセンシングデバイスをはじめ,小面積でフレキシブルでありながら,こうしたデバイスに十分な電力を供給できる太陽電池など多岐にわたる。こうした光デバイスの進化によって,SF小説のような産業が今まさに生まれようとしている。【デジタルメディア編集長 杉島孝弘】

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