TDKは6月19日,米国に拠点を置くシステムソリューション企業,SoftEye, Inc.を買収したと発表した。SoftEyeはスマートグラス向けのカスタムチップ,カメラ,ソフトウェアならびにアルゴリズムを開発する,米カリフォルニア州サンディエゴに本社を置く企業。
ユーザーと生AIをシームレスにつなぐビジョンを追求しており,カスタムチップ,カメラ,ソフトウェアならびにアルゴリズムにより,ユーザーが見たものをAIがリアルタイムで認識し,メタデータとしてキャプチャ・タグ付けを行なう機能を実現する。これにより,見ている対象に関わる今現在の情報はもちろん,過去の記憶(記録)もデータとして扱えるようになるという。
TDKがSoftEyeの買収を行なった理由として,現在,一時に比べて熱が冷めたように見えるARグラス市場をAIによって掘り起こすことで市場を活性化した上で,ARグラスの中核部品のサプライヤーとしてのプレゼンスをさらに発揮したいという思惑が見える。

同社は2024年7月にエッジ領域のAIを搭載したセンサフュージョンに対応するため,TDK SensEIを設立している。この新会社は,TDKのソフトウェア/エッジAIと,ハードウェアソリューションを連携させたプラットフォームによって,インダストリー4.0に対応する次世代産業でのサービスの実現を目的としている。
このようにAIソリューションに積極的な投資を行なう一方,ARグラスに必要なデバイスの開発も精力的に進めている。もともと同社は各種センサーやオーディオ,通信回路や電源回路といった,ARグラスをはじめとするIT機器に必須となるデバイスをラインナップしているが,最近ではニオブ酸リチウムの電圧制御によるフルカラーレーザー制御デバイスをQDレーザと共同で実証するなど,ARグラスの心臓部である光源についても次世代を見据えた発表をしている。
さらに,日本大学と共同で波長800nmの光を20ピコ秒という超高速で光を検知できる素子「Spin Photo Detector(スピンフォトディテクタ)」も開発。可視光にも対応できるこの素子はARグラスへの応用も期待できるとしており,他社をリードする研究開発体制で業界をけん引する。
今回,これまでTDKが得意としてきたデバイスに加え,AIソリューション企業を傘下に収めたことで,ARグラス×エッジAIの実現に向けた両輪が揃った。特に大手企業においてARグラスの開発熱はひと段落した感もあるが,AIとの組み合わせによってふたたび息を吹き返すか,その動向が注目される。【デジタルメディア編集長 杉島孝弘】