日本の社会インフラの老朽化が懸念されている。道路,橋梁,トンネル,上下水道など,日々の生活や経済活動を支えるこれらのインフラは耐用年数を超えた構造物も多く,全国的に点検・補修のニーズが急速に高まっている。しかし,点検や維持管理にかかる人手やコストの増大が課題となっている。
そこで注目したいのが,光技術の応用だ。光ファイバーやレーザー,分光技術,画像解析などの光技術が非破壊で高精度な検査を可能にし,インフラの点検やモニタリングを一変させる可能性がある。 例えば,光ファイバーセンサーを構造物に組み込むことで,ひずみや振動,温度変化などをリアルタイムで検出できるようになる。
これは橋やトンネルといった大型構造物の常時監視に有効で,異常の早期発見や災害時の安全確認にも役立つ。また,ドローンやロボットに搭載されたカメラやLiDARといったセンシング技術を用いることで,人の立ち入りが困難な場所の検査も安全かつ効率的に行なうことができる。

さらに,レーザーによる打音法を始め,分光分析や蛍光観察などの光学的アプローチによって,コンクリートの劣化や鉄筋の腐食といった微細な変化を検出する研究も進んでいる。これにAIによる画像解析を組み合わせることで,自動化された高精度な診断が可能となり,点検作業の省力化と信頼性向上が期待されている。
こうした技術は現場での作業を軽減するだけでなく,予防保全という観点からも重要となる。これまでの「壊れてから直す」事後保全から,「壊れる前に対応する」予防保全への転換は,長期的なコスト削減と公共の安全確保に大きく貢献する。光技術はその転換を支える重要なツールとして訴求できる。
しかし,その導入にはまだ課題も多い。コストもさることながら,データの処理や管理体制,既存インフラとの統合,標準化の問題など,技術面・制度面での整備が求められている。大学や研究機関,企業,行政が連携し,実証実験やフィールドテストを積み重ねながら,現場のニーズに即した形での実装を進めていく必要があるだろう。
光技術の応用は,見えなかった劣化を「見える化」し,次世代に安心・安全な社会基盤を引き継ぐための鍵となる。インフラ老朽化という社会的課題に対し,もっと光技術の力を活用していくべき時が来ているのかもしれない。