【主張】日本は再び「科学技術立国」を目指せ

政府が昨年12月に閣議決定した2025年度予算案のうち,科学技術関係(科学技術振興費)は1 兆4221億円と,前年度当初に比べ0.9%増となった。数年来,科学技術振興費は1%前後でわずかながらも増え続けてきたが,そもそもGDP世界4 位の先進国として,この予算規模は適正なのだろうか。近年は補正予算で積み上げがあるとはいえ,日本の科学技術力が低下しつつあるのは誰の目にも明らかだ。

世界の特許出願数,科学論文の発表数,大学ランキングなどをみても,日本は一定程度の地位を維持しつつも,各指標は他国に抜かれ相対的に下がっている。例えば,文部科学省が昨年8月に公表した日本の研究力を示す「科学技術指標2024」によると,注目度の高い論文数の国別順位は過去最低となった23年と同じ13位にとどまっているほか,研究開発費も米国,中国などに比べ大きく見劣りする。つまり,今なお科学技術の「大国」かもしれないが,かつて標ぼうしていたような「科学技術立国」の姿はそこにはない。

前政権の岸田文雄政権は「資産運用立国」の実現を掲げ,現政権の石破茂政権も引き継いでいる。その前の菅義偉氏は,第二次安倍晋三政権の官房長官時代に「観光立国」を打ち出し,自らの政権でも力を注いできた。もちろん,資産運用も,インバウンド(訪日外国人旅行)も重要であり,その方向性に異論をはさむつもりはない。

しかし,国力向上を突き詰めたとき,その一丁目一番地にあるべきは「科学技術立国」ではないのか。あわせて,今はだれも言わなくなった「製造立国」も同様に,日本が目指すべき針路ではなかったのか。資源小国で,先進国の中で最も少子・高齢化が進む日本だからこそ,これまで以上に研究者,とくに若手人材の想像力と好奇心を育み,科学技術力を高め,国の推進力とすべきだろう。

政府では内閣府総合科学技術・イノベーション会議で,来年度(2026 年度)から5 カ年間の第7期科学技術・イノベーション基本計画の策定が始まっている。第6期基本計画(21 ~ 25年度)では10 兆円大学ファンドなど多額の投資が行われたというが,そこに列挙されたのは誰もが考えそうな総花的なテーマと見栄えのよい数字(投資額)だけで,日本らしさを活かした具体性のある戦略は存在したのだろうか。

2000年以降,自然科学分野でノーベル賞を受賞した日本人は20人と,世界で2番目に多いという。一方で直近4年間では,21年に物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏のみである。それも米国での研究が認められての受賞であり,日本の科学技術が退潮傾向にある表れのひとつなのかもしれない。中長期的な視点に立った科学技術力の立て直しが今こそ必要なときにきている。

このコラムでは光技術・光産業,さらには科学技術政策の諸課題について,広く,深く掘り下げ論考するとともに,ときには弊誌の持論も披露していきます。

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