【解説】量子赤外分光がもたらす市場へのインパクトを探る

量子もつれや非古典光を利用し,測定の感度と分解能を飛躍的に向上させる技術,量子赤外分光の研究が注目されている。通常の赤外分光とは異なり,もつれた光子対を活用し,赤外光を直接検出せずに可視光などで情報を取得できるため,従来の赤外検出器の制約を克服できるという。

この技術の基盤となる量子もつれの研究は,2022年にノーベル物理学賞を受賞し,その重要性が改めて認識されることになった。国内では文科省委託の研究プロジェクトが行なわれており,当該研究分野を主導している,京都大学・竹内研究室の研究グループは量子技術を活用した分光計測の研究で多くの成果を発表してきた。

竹内研究室では小型でポータブルな量子赤外分光システムの実現を目指しているが,実用化において小型化は市場に対する訴求面でもインパクトは大きい。

将来的には非侵襲的な生体分子分析や大気汚染物質の高精度測定に加え,新材料の開発への貢献,産業界や基礎科学の発展を加速させる技術として期待されている。

なお,月刊OPTRONICS 2025年3月号に,竹内究室研究員の田嶌俊之氏による「超広帯域量子赤外分光」についての研究が「若手研究者の挑戦」に掲載予定なので,こちらも是非ご覧いただきたい。(月刊OPTRONICS編集長 三島滋弘)