太陽光発電業界は,さらに効率の高い太陽電池モジュールに対する需要の高まりを受けて,大きな技術的転換期を迎えている。その結果メーカーは,PERC(Passivated Emitter and Rear Contact:パッシベーション・エミッタ・リアコンタクト)技術よりもさらに優れた性能を得られるセルアーキテクチャへと移行しつつある。
その中でTOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact:トンネル酸化膜パッシベーションコンタクト)は,今後10年間とそれ以降における結晶シリコン(c-Si)太陽電池製造技術の最有力候補として浮上している。
最近の調査によると,TOPConは最終的に最大60%のシェアを獲得すると予想されている(ITRPV – International Technology Roadmap of Photovoltaics)。TOPConは,キャリア収集能力に優れており,エネルギー損失が低く,全体的な効率が高いなど,PERCよりも顕著に高い性能を実現するが,一方で特にメタライゼーションの面において新たな課題ももたらす。
従来のスクリーン印刷用の銀は,太陽電池の表面と裏面の接点を形成するための業界標準の材料として長年にわたって使用されているが,その持続可能性は低下しつつある。銀は既に太陽電池の中で(シリコンに次いで)2番目にコストの高い部品である上に,TOPConはPERCよりも銀の使用量が50%も多い。
これによりコストが増加するだけでなく,銀のサプライチェーンにも価格変動を引き起こす可能性があるため,代替案としてレーザー・コンタクト・オープニングと電気化学メッキを組み合わせた(「LCO+メッキ」と呼ばれる)手法が注目されている。
この方法では,銀ペーストを使用する代わりに,短波長の超短パルス(USP)レーザーを使用してセルの表面と裏面の薄い誘電体層に非常に精密な開口部を形成する。続いて,シリコンが露出したそれらの領域に銅メッキを施すことにより,高品質で低抵抗の抵抗接点を形成する。
もちろん,銅の方が材料コストは低く,導電率や拡張性も高くなる。ここでは,MKS Incのレーザーとメッキ技術が,LCO+メッキへの移行をサポートする方法について解説する。

LCO+メッキの優位性
スクリーン印刷は,シリコン太陽電池のメタライゼーションに対する標準的手法として長い間使用されてきたが,特にTOPConの製造においては,その限界が明白になりつつある。特に,銀ペーストは高価なだけでなく,どれだけ精密に印刷できるかという点で本質的な限界がある。
銀ペーストはコンタクトラインの幅が広く,高さが高くなるほど光の陰影が多くなり,セルの活性面積が減少して抵抗損失が高くなるなど,セル効率の低下につながる。また,スクリーン印刷では,機械的接触/圧力や高温炉での焼成など,過酷な物理的処理によって薄いウエハーや繊細なTOPCon薄膜が損傷する恐れがある。このような処理は程度の差こそあれ,生産の歩留まり/スループットを低下させる。
LCO+メッキは,そうした限界を解消する。レーザーを使用して,パッシベーション誘電体層の正確に定義された領域を開くことで,低抵抗の接点を選択的に形成することができる。続いてその領域を,比較的少ない量で費用対効果の高い金属(ニッケル,銅,スズ)でメタライズすることで,性能を損なうことなく材料コストを大幅に削減することができる。このようにLCO+メッキは,より狭いメタルライン,より高い導電率,より低い接点抵抗を実現する,持続可能性の高いメタライゼーションの方法となる。
装置やプロセス制御の複雑さは増すものの,独フライベルクのフラウンホーファー研究機構・太陽エネルギーシステム研究所(Fraunhofer Institute for Solar Energy:ISE)らの検証によって,パイロットラインによる初期結果では,従来のスクリーン印刷によるセルと同等か,それを上回る性能が得られることが示されている。
したがって,TOPConの採用が加速する中で,LCO+メッキは,高効率でコスト重視の太陽電池製造の新たな標準となる準備が整っているとする。
LCOプロセスの考察事項
LCOの目的は原理的にはシンプルで,下層のシリコン層やSiO2層への影響を最小限に抑えながら,反射防止層とパッシベーション誘電体層を除去することにある。しかし,これを実際に行なうには,厳密に制御された高精度なプロセスが必要となる。
短波長の超短パルスレーザー,具体的には,紫外(UV)のピコ秒(ps)レーザーやフェムト秒(fs)レーザーは,このニーズを満たすのに適している。短いパルス幅にUV光の強い吸収を組み合わせることが重要で,窒化シリコン(SiNx)の反射防止膜はUVレーザー光の大半を透過させるため,その下のシリコン層における(熱と光の両方の)相互作用を,数十nmの範囲に抑える必要がある。
この浅い領域に閉じ込められた吸収エネルギーにより,下のシリコン層にプラズマが形成されて急速に加熱されることで,薄いSiNx層が除去される。このように,エネルギーの拡散を制御して限定することが,下層のトンネル酸化膜と多結晶シリコン(多結晶Si)層の完全性を維持するために不可欠であり,その完全性がTOPConセルの性能を左右することになる。
図2は,ピコ秒(ps)とフェムト秒(fs)のUVレーザーで形成したLCOの形状を,光学顕微鏡で観察し
た様子。パルス幅,波長,スポット径,フルーエンスなどのレーザーパラメータを,プロセスのスループットとのバランスを図って慎重に最適化する必要があるが,ほとんどのプロセスにおいて,psレーザーは速度と品質を優れたバランスで提供できている。

しかし,TOPConのLCOのような薄膜の処理に対しては,fsレーザーの方がアブレーション閾値が低く,積層材料に穏やかに作用するため,スループットが高くなる場合がある。準フラットトップ型の強度分布を適用するなどのビーム整形により,アブレーションの深さと均一性を,さらにきめ細かく制御することができる。
MKS Incのアプリケーションエンジニアは,TOPCon太陽電池材料のアブレーション中に,さまざまなレーザープロセスパラメータがどのように作用するかを具体的に特性評価するため,詳細な調査を行なった。この作業は,以下の処理を確実に達成するパラメータの組み合わせを特定することを目的とした。
・SiNx反射防止層(厚さは70〜120nm)を完全に除去する
・ターゲット層全体にわたって均一にアブレーションを行なう
・周辺材料に対する熱影響を制御して最小限に抑える
・下層の多結晶Si層(200nm未満)に対する影響を最小限に抑える
・多結晶Si層の下の薄いSiO2トンネル/パッシベーション層(厚さは1〜2nm)に損傷を与えない
図3は,MKS Incで行なわれた試験の結果の1つ。走査透過電子顕微鏡(STEM)を使用して,TOPCon太陽電池がレーザーにどのように反応するかが詳細に示されている。この画像では,わずかに重なり合う3発のpsレーザーパルスによって対象領域のアブレーションが行なわれている。同じ加工領域を上から見た画像と断面図の両方が示されている。

ここで注目すべき点は,レーザースポットは中心に近いほどエネルギー強度が高いにもかかわらず,外側AZ(図中でゾーン2と示されている溝部分)の方が内側AZ(図中でゾーン1と示されている領域)よりも多くの材料が除去されていること。考えられる理由の1つは,レーザービーム周辺部の強度が,上層(SiNx)の非線形吸収を引き起こすには不十分であるため。
その結果,ビームのエッジ部分では,予想よりも多くのレーザーエネルギーがその層を透過して,より多くのシリコンが除去される。超短パルスの照射で生じる急速な加熱と冷却により,ゾーン3が形成される。このゾーンでは,p+多結晶Siの一部がアモルファスSiに変換される。これを多結晶状態に戻すために,追加の加熱サイクルが必要になる。
メッキによるメタライゼーション
LCOによってTOPCon太陽電池にビアを形成した後,次の重要な工程は金属の蒸着。メッキは高効率で費用対効果の高いメタライゼーションを行なうための最適な手段となる。高価な銀ペーストを使用するスクリーン印刷とは異なり,メッキでは銅を主要導体として使用する。銅は導電率が高く,材料コストを大幅に削減することができる。TOPConに対する銅を用いた標準的なメタライゼーション・スタックは,一般的に次の3つの工程で形成される。
1. ニッケル(Ni)メッキ:抵抗接点を形成するとともに,銅とシリコンの間の拡散バリアとしての役割を果たす。
2. 銅(Cu)メッキ:メインの導電経路を作成する。
3. スズ(Sn)または銀(Ag)による封止:耐食性とはんだ付け性を強化する。
これらの工程は,電気化学堆積(ECD)または無電解メッキによって行なうことができる。繊細なTOPCon構造に対しては,無電解ニッケルメッキが有力な手法となる。これは,析出を引き起こすために電気を流す必要がなく,両面をメッキできる可能性があるため。これによって、繊細なウエハーに対する処理工程と機械的ストレスを減らすことができる。
しかし,無電解メッキは,プロセスが簡素化されてコストが削減できる可能性がある一方で,大量生産にはまだ広く採用されていない。これに対してECDは,より確立された手法であり,初期設備投資は高くなるが,優れたプロセス制御が可能で,厚みの均一性と高い材料純度が可能になる。図4に示すように,集束イオンビーム(FIB)によってECDメッキの一部を除去し,メッキ界面を詳しく観察することができる。

どちらのメタライゼーション方法を選択する場合でも,プロセスの統合が鍵となる。低い接点抵抗と高い密着強度が確実に得られるように,レーザー加工による開口部を,メッキプロセスの要件に合わせて慎重に最適化する必要がある。注意すべき点としては,LCOの開口部のサイズ,スポットのオーバーラップ率,残留表面の品質などがあり,これらのすべてが,メッキの均一性,密着性,性能に影響を与える。
セル性能
最適化されたLCO+メッキの生産プロセスにより,現実的にどのような効果が期待できるのかを調べるために,Spectra-PhysicsのレーザーシステムとAtotechのメッキ化学物質を使用して,OPConデバイスを作成した。この調査は,フラウンホーファーISEと共同で行なわれたもの。ただし,この調査で使用したウエハーは,LCO用に最適化されたものではなく,メッキは実験室グレードの装置で行なわれている。
この条件下で,最大23.3%のセル効率を得た。開放電圧(VOC)は約693mV,曲線因子(fill factor)は82%以上だった。使用したウエハーは,実際にはスクリーン印刷用に設計されたものだが,そのスクリーン印刷によるメタライゼーションの結果(24%)とほぼ同等の効率が得られたことになる。
ウエハー前駆体,レーザープロセス,化学物質を包括的に最適化して実施された,他のグループによる試験では,26.7%の効率が達成されている。これは,製造可能なTOPConセルとして実用的と考えられる上限に近い値となる。
結論
TOPConは,今後10年間のシリコン太陽電池製造の主要技術として位置付けられているが,長期的に成功するかどうかは,銀を使用するスクリーン印刷を超えることにかかっている。LCO+メッキは,拡張性と持続可能性に優れた代替手段となる。特に,Spectra-PhysicsのレーザーとAtotechのメッキ化学物質の組み合わせは,高効率性能と製造可能性の両方を実現する,メタライズされたTOPConセルを作成できることが実証されている。
このプロセスは,複数の高速加工ヘッドを並行して使用することにより,最大毎時3万5000枚のウエハーを生産するレベルのスループットにまで拡張することができる。このことからLCO+メッキは,TOPCon太陽電池の商用生産に向けた実行可能な道筋だといえる。
「IceFyre」産業用ピコ秒レーザー
「IceFyre UV50」は,1.25MHzで50Wを超えるUV出力(40μJ以上)を提供し,バーストモードにおけるパルスエネルギーは数百μJ,パルス幅は10ps。その高い出力とシングルショットから10MHzまでの繰返し周波数によって,新たな基準を打ち出す製品となっている。
「IceFyre UV30」は,60μJを超えるパルスエネルギー(バーストモードではそれ以上)で,30Wを超えるUV出力を提供し,シングルショットから3MHzの範囲で高い性能を示す。「IceFyre IR50」は,400kHzのシングルパルスで50Wを超えるIR出力を提供し,シングルショットから10MHzの範囲で優れた性能を示す。
IceFyreのレーザーには,ファイバレーザーの柔軟性とSpectra-Physics独自のパワーアンプ機能を活用して,高い汎用性を備えた「TimeShift」psプログラマブルバーストモード技術を実現する,ユニークなデザインが採用されている。
各レーザーには,標準の波形セットが用意されている。オプションの TimeShift ps GUI により,カスタム波形の作成が可能。このレーザーデザインにより,ポリゴンスキャナを使用している場合など,高速スキャン速度での高品質処理において,既存のピコ秒レーザーの中で最も低いタイミングジッターで,真のパルスオンデマンド (POD) および位置同期出力 (PSO) のトリガーが可能となっている。

MKS Atotech
太陽電池のコンタクトフィンガーを電気メッキすることにより,材料コストを大幅に削減しつつ,セル効率を高めることができる。メッキによるNi/Cu/Sn接点は,従来のスクリーン印刷による接点よりも優れた性能を示す。
ニッケルメッキ: 薄いニッケルシード層がバリア層として機能し,シリコンとの抵抗接点を確立する。「Nimate PV」(電解)や「EXPT PV EN 4」(無電解)は,シード層や拡散バリアとして機能する。
銅メッキ: 優れた電気的特性を持つ高導電性の銅フィンガーを実現。低応力で延性のあるその組成は,機械的衝撃に対する耐性も備える。「Cupracid」PVファミリーは,2〜25 ASDの電流密度で動作するように
調整されている。
スズメッキ: 信頼性の高いセル接続のためのはんだ付け性を確保し,湿度等の影響から銅を保護する。「Stannacid」PVは標準的なスズプロセスで,「Niveostan」PV 20は高速なスズプロセスとなっている。

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