金沢大学,麗光,加クイーンズ大学は,すべて有機材料で構成されたフィルム型太陽電池において従来の2倍以上の性能を実現することに成功した(ニュースリリース)。
有害な物質を含む太陽光パネルは廃棄コストが高くなる傾向にある。また,昨今注目されているフィルム型太陽電池も,有害性が懸念される金属や金属酸化物などを含み,環境負荷や廃棄コストの問題が指摘されている。
こうした課題を解決するため,全て有機材料で構成された「全有機太陽電池」が提案されている。有害な金属を含まず,通常のプラスチックと同様に焼却処理が可能であるため,廃棄のコストや労力を大幅に削減できる可能性がある。
しかし,全有機太陽電池の最大光電変換効率は約4%と,従来のシリコン型太陽電池やペロブスカイト太陽電池と比べて大幅に劣る。その主な原因として,十分な導電性を持つ有機透明電極材料で,フィルム型太陽電池に適用可能な材料が限られているという課題があった。
報告されている高導電性の透明有機材料の多くは,導電性を向上させるために強い酸や塩基の添加,高温での熱処理が必要だが,有機材料の基板を損傷させるため,より温和な条件で作製でき十分な導電性を持つ有機電極材料の開発が求められる。そこで,導電性高分子であるPEDOT:PSSをベースとし,酸や塩基を使用せず低温で作製可能で太陽電池の電極として十分な導電性を示す透明電極を開発した。
また,多層膜で構成される太陽電池デバイスを作製する際に溶液プロセスを用いた場合,上層を形成する際に下層が溶解したり,膜の均一性が損なわれたりするリスクがある。
そこで金沢大学が開発した「カーボンナノチューブ電極のラミネーション法」を活用した。太陽電池の封止材上に別個に電極を形成し,それを貼り付けることで電極を作製することで,カーボンナノチューブ電極を作製する際の溶液プロセスが,下層の有機材料を損傷させることを防ぐことができるという。
このように,新たな電極材料と作製手法を組み合わせることで,従来の2倍以上の光電変換効率を持つ全有機太陽電池の作製に成功した。研究グループは今後,光電変換効率をさらに高めることを目指し,より低コストで製造可能な材料や手法の開発にも取り組み,誰でも気軽に使え,廃棄も容易な太陽電池としての普及を期待するとしている。