ピコ秒UVレーザーによる新しい折りたたみ式OLEDディスプレー材料の切断加工

処理能力と無線データ通信の進歩によって携帯機器市場が成長し続けている現在,ディスプレー技術は見過ごすことのできない重要な存在である。主要なヒューマンインターフェースコンポーネントであるタッチスクリーン搭載フラットパネルディスプレーは,最適なユーザーエクスペリエンスを提供する上で極めて重要な役割を果たしている。

昨今の携帯機器市場において,OLED(有機発光ダイオード)ディスプレーが注目されている。これは薄型,フレキシブル,軽量かつエネルギー効率の良いパッケージで高品質の画像を提供し,現世代だけでなく次世代の折りたたみ式携帯機器にとっても最適なディスプレーである。

コンパクトな折りたたみ式電話の主要課題は,ディスプレーのすべてのコンポーネント(OLEDディスプレー,タッチセンサー,偏光板,カバーウィンドウ)を折りたたむときの曲げ半径をより小さくすることである。このため,メーカーは超薄型ガラス(UTG)や可視波長域で透明に見える比較的新しいタイプのクリアポリイミド(クリアPI)といった材料の開発を続けている。

UTGは本質的に耐スクラッチ性に優れているが,要求される厚さ(50~200μm)が薄いため壊れやすく,製造と取り扱いが困難な材料である。クリアPIは本質的にフレキシブルであるため,製造しやすいという利点があるが,耐スクラッチ性を向上するために薄いハードコード(HC)層でコーティングしなければならない。

このコーティングは加工を施し,防眩性と耐指紋性を兼ね備えることもできる。いずれの材料も,折りたたみ式ディスプレイ市場で強力な存在感を示すものと期待されている。UTGガラスの切断では,一般にIRピコ秒レーザーによるベッセルビーム加工が用いられている。クリアPI+HCには,アブレーション切断加工が必要である。

図1 左:画期的な携帯機器技術であるフレキシブルディスプレーを搭載した折りたたみ式電話。右:ここで取り上げる材料スタックの層構造図

ここでは,折りたたみ式ディスプレーのカバーウィンドウに使用されるクリアPIベースの多層スタックを,ハイパワーピコ秒355nmハイブリッドファイバーレーザー(IceFyre® 355-50)でアブレーション加工した結果を記載している。このスタックは50μm厚のクリアPIフィルムと,片面の12μm厚のハードコート(HC)層で構成されている。

HC層に接着されているのは,50μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)による保護層(後で除去)である。さらに,クリアPIのハードコート面に接着させるためにPETフィルムには感圧接着剤(PSA)がコーティングされている(4μm以下)。高品質であることはクリアPI+HC層にとって必要不可欠であるのに対して,PET+PSAフィルムにとっては重要であるものの,不可欠というわけではない。

3種類の主要材料(クリアPIフィルム,HC層,PET保護シート)におけるアブレーション挙動の特徴を個別に把握するために,最初の実験を実施した。シングルパルスのアブレーション閾値を決定し,その結果を図2に示した。

図2 アブレーション加工部とレーザーフルエンスの図は,切断するスタック内の3種類の材料に関する閾値の差異を示している。

閾値は大幅に異なることが判明した。クリアPIの閾値は非常に低く0.25J/cm2であるのに対して,HCは約10倍高く2.4J/cm2,PETはその中間の0.56 J/cm2である。

クリアPIの低いアブレーション閾値は,UV波長の強力な吸収によって形成された非常に平滑かつ浅いアブレーションクレーター(従来のポリイミドの使用時)の観察結果と一致している。HCフィルムの高い閾値は,さまざまなガラスの閾値とほぼ同じである。同様に,図3のさまざまな加工条件に関する顕微鏡画像で示されているとおり,薄い層は脆く,クラックやチッピングが発生しやすいものである。

図3 12μmのハードコートフィルムでは,パルス間隔が狭くオーバーラップ率の高いプロセスによって品質が劇的に向上している。

図3の左側の顕微鏡画像は,材料のフルエンスとパルスのオーバーラップ率に合わせてパラメーターを慎重に最適化すると,HC層までのスクライブ表面が非常に平滑になることを示している。図3の中央の画像は,スクライブ全体に沿って深刻なチッピングが発生し,最適な結果が得られなかったことを示している。

意外なことに,この低品質の結果に終わったのは,中程度のフルエンスでパルスのオーバーラップ率が低いときである(これは一般に穏やかな加工法と見なされているため,より高品質の結果が得られると考えられている)。実際に,シングルパルス照射のみで生じたクラック(図3,右の画像)は,新しいアプローチが必要であることを示している。

3種類の材料の閾値と全体的なアブレーション挙動を理解した上で,フルスタックを切断するプロセスを開発した。ただし,レーザービームは完全切断時にスタック(クリアPI)の1つの面のみを照射するため,さまざまな材料のパラメーターを微調整しなければならなかった。

連続層それぞれに対して,パルスエネルギー,パルス周波数(PRF),走査速度を独自に組み合わせたものを適用した。ピコ秒UVパルスを用いるとアブレーションの挙動は再現性が高いことが判明したため,アブレーション深さなどのリアルタイムモニタリングが不要だった。

さらに,このレーザーは「オンザフライ」方式でパルスエネルギーとPRFの調整に対応できるため,レーザーのパルスエネルギーとPRF,繰り返しスキャン回数などのパラメーターを最終切断用に予めプログラムすることができた。走査速度を3~10m/s,レーザーのPRFを3MHz以下に設定したところ,400mm/sを超える正味速度で高品質な完全切断部を実現できた。図4は,クリアPI 層,HC層,PET層の切断部を示している。

図4 顕微鏡画像では,400mm/sを超える全体的な(正味の)切断速度で層別に切断加工するためにピコ秒UVレーザーで切断したクリアPI(左),HC(中央),PET(右)が示されている。

高品質な切断部は明確で,熱影響部(HAZ)はすべて10μm以下である。特に,他よりも加工が困難なHC層はエッジのチッピング/粗さが5μm以下である。PETフィルムのHAZは他よりも多少大きいが,それほど問題ではない。これは,最終的に除去される単なる保護カバーフィルムであり,カバーなしの耐スクラッチHC層が実際に使用されるためである。切断部の側壁エッジは完成したディスプレーを機器に搭載するときに接触面になるため,その品質も重要である。図5は,側壁の断面図を示した顕微鏡画像である。

図5 50μmのクリアPIとPET,12μmのHC,4μm以下のPSAの高品質な切断部の断面図。

この断面図は,材料スタックの全体にわたり切断加工の品質が維持されていることを示している。各層は明確に区別することができ(非常に薄いPSAを含む),スタック内での層の溶融,汚れ,または剥離は認められない。

一般に,新技術には新材料とその加工法が必要である。折りたたみ式ディスプレーの場合,多様な光学特性,熱特性,機械特性を持つ単一のコンパクトな材料スタックを切断するのは容易な作業ではない。保護PETフィルムを接着させたハードコートクリアPIの場合,層別の最適化手法をハイパワーかつ極めてフレキシブルなIceFyreピコ秒UVレーザーと組み合わせると,高スループットと高品質という非常に有望な結果を得ることができる。

IceFyre®産業用ピコ秒レーザー
IceFyre 355-30は,市場で最も高性能なピコ秒UVレーザーでパルス幅は10psである。バーストモードにおいて1.25MHz(>40μJ),数百μJのパルスエネルギーで50Wを超えるUV出力パワーを提供する。IceFyre 355-50は,パワーおよびシングルショットから10MHzまでの繰り返し周波数の新しいスタンダードを確立する。

IceFyre 355‑30は,60μJを超えるパルスエネルギー(バーストモードではより大きなパルスエネルギー)で30Wを超えるUV出力(typical値)を提供し,シングルショットから3MHzまでの優れた性能を提供する。IceFyre1064-50は,400kHzシングルパルスで50Wを超えるIR出力パワーを提供し,シングルショットから10MHzまでの優れた性能を提供する。

IceFyreレーザーは,ファイバーレーザーの柔軟性とSpectra-Physics独自のパワーアンプ機能を活用したユニークな設計により,TimeShiftpsプログラマブルバーストモード技術を実現し,業界最高水準の多機能性を実現している。各レーザーには標準の波形セットが用意されている。オプションのTimeShift ps GUIにより,カスタム波形の作成が可能である。

このレーザーデザインにより,ポリゴンスキャナーを使用している場合などで,既存のピコ秒レーザーの中で最も低いタイミングジッターで真のパルスオンデマンド(POD)および位置同期レーザー出力(PSO)を可能にし,高速走査速度での高品質処理を可能にする。

詳しくはスペクトラ・フィジックス(株)webサイトを参照されたい。