従来のレンズ設計概念を破る – 新機軸の非球面アクロマティックレンズ

アクロマティックレンズは,最も一般的に用いられる光学部品の一つ。このレンズは色収差を補正して,少なくとも二つの光の波長を同一焦点上に結ばせるために,歴史的に2枚のレンズ素子を接着固定する構成をとってきた。単一材料の非球面アクロマティックレンズは,複数の材料の代わりに独自の形状を用いることでアクロマティックな性能を実現させるという,従来の概念を超える新たなタイプのレンズだ。本レンズは,従来のアクロマートよりも広い帯域幅があり,複数の材料間の熱膨張係数(CTE)の差異がなく,また複数の材料を接着する接合樹脂が不要になることから,ハイパワーレーザーに対応できるという特徴を備えている(詳細を見る)。

● 既存の概念は破られるためにある

Figure 1: MATLABの単一材料の非球面アクロマートのレイアウト。レンズ口径の半分のみを図解。

アクロマティックレンズは,通常,低屈折率の正のクラウンガラス素子と,高屈折率の負のフリントガラス素子の2枚のレンズ素子を接合させた構成をとる。単一材料の非球面アクロマティックレンズは,革新的で複雑な非球面形状を用いることで,複数の材料を使用する必要性を省く(Figure 1)。

このレンズを設計/最適化するには,特注の光学設計コードを開発する必要があった。なぜなら,Zemax,OpticStudio®およびSynopsisのCode Vといった利用可能な光学設計プログラムにはこうした複雑な非球面を定義する能力が備わっていなかったためである。これに対して,特注のMATLABコードは一般に受け入れられている非球面の数学的表現にかかる制約を取り除くことで,設計の自由度がより高くなっている。特注コード開発に関する詳細は,SPIE LASE 2020で公開されている会議の議事録で見ることができる。

● 単一材料の非球面アクロマティックレンズの利点

Figure 2: 焦点距離100mm,NA0.097の単一材料アクロマティックレンズの名目の色的焦点シフトは10µmで,焦点距離100mm,NA0.013のアクロマティックダブレットレンズ(#32-327)の名目シフトの200µmより20倍改善している。

単一材料の非球面アクロマティックレンズは,従来の複数材料によるアクロマティックレンズに対していくつかの利点がある。アクロマティックレンズでは,色的な焦点シフトを最小化することに特に関心が集まる。他のバンド内波長の色的な分散を最小限に抑えた上で複数の波長を光軸上の単一スポットに集めることが通常求められるためだ。Figure 2は,単一材料のアクロマティックレンズと同等の従来型ダブレットレンズの名目の色的焦点シフトを比較したもので,単一材料のアクロマティックレンズが軸上で従来のダブレットレンズを大幅に上回っているのがわかる。

単一材料のアクロマティックレンズは,従来の複数材料のアクロマティックレンズに対してよりハイパワーなレーザーに対応する。これは,従来型で異材料を接着するために必要だった光学接着剤を必要としないためだ。一般的に,接着剤のレーザー損傷閾値は,従来のアクロマティックダブレットレンズのレーザー損傷閾値の制限要因になっている。

接着剤がないことで複数の材料間でのCTE差が生じないため,単一材料のアクロマティックレンズに熱的安定性ももたらす。従来のアクロマティックダブレットレンズにおけるクラウンガラスとフリントガラスのCTE差は,熱に起因する応力とデフォーカスにつながる可能性がある。

● 製造上の課題
単一材料のアクロマティックレンズは独自の形状をもつことから,他の多くの光学部品よりも製造が難しくなる。エドモンド・オプティクスは,光学用のプラスチックで一般的に使用されるZeonex E48Rをダイヤモンドターニング加工して,単一材料のアクロマティックレンズを製造している。 また,ゲルマニウムやシリコンを始めとする他の材料をダイヤモンドターニング加工することも可能だ。

こうしたレンズは,必要な形状に成形するため,従来の研削研磨ではなく,ダイヤモンドターニング加工により製造される必要がある。表面と裏面間のアライメントを微調整するためには,数度にわたる反復作業が必要となるが,これは形状測定データのフィードバックループと,平坦な環状ゾーンや外径を含むダイヤモンドターニングデータムのキネマティックな位置決めを行なうことで可能になる。

● 実世界での性能テスト

Figure 3: 18個の異なる単一材料アクロマティックレンズの色的焦点シフトの測定値と従来のアクロマティックダブレットレンズのそれとの比較。単一材料アクロマティックレンズの色的焦点シフトが大幅に少ないことがわかる。

製造された単一材料のアクロマティックレンズの性能が,その名目上の性能とどの程度一致しているかを評価するため,Optikos社のMTF測定器とバンド幅10nmの光学フィルターを用いて450~650nmのさまざまな波長でのベストフォーカスポイントを測定することで,18個のサンプルレンズの色的焦点シフトを定量化した(Figure 2)。テストの詳細は,前述のSPIE LASE 2020会議の議事録で確認することができる。

単一材料非球面アクロマティックレンズの18サンプルの色的焦点シフトは,49~75µmの範囲内でだった。参考までに,Figure 2における同等のアクロマティックダブレットレンズは,同じ方法を用いて測定され,約210µmの色的焦点シフトがあった。単一材料のアクロマティックレンズは,その名目上の性能と比較した場合,製造公差のためにある程度の性能低下が見られたが,従来のアクロマティックダブレットレンズより3倍も優れていた(Figure 3)。

エドモンド・オプティクスは,単一材料のダイヤモンドターニング加工によって製造されたアクロマティックシングレットレンズを発売した。製品の詳細はこちらから確認できる。

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