東京大学,三菱電機,東芝デバイス&ストレージ,東京工業大学,明治大学,九州大学,九州工業大学は共同で,基板の裏面にもMOSゲート部を有する両面ゲートIGBTを両面リソグラフィプロセスを用いて試作することに成功し,従来構造と比較して62%のスイッチング損失低減を実証することに成功した(ニューリリース)。
パワートランジスタには,シリコンを材料とするパワーMOSトランジスタや絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)が広く普及している。
特にIGBTは,高い耐圧,MOSゲートによる高速性,伝導度変調による大電流特性から広く用いられている。ところが,一般にシリコンIGBTは性能限界に近づいているとされている。
IGBTでは,集積回路を構成するMOSトランジスタとは異なり,電流は基板の上下方向に流れる。IGBTでは大電流をオン・オフ(スイッチング)させるために,MOSトランジスタのゲート部に相当するスイッチング機構がシリコン基板の上部に設けられている。このゲートに信号を入力することで,大電流のスイッチングを行なう。
ところが,IGBTをオフにする際,基板内部にたまった電子と正孔を排出するのに時間がかかるため,中途半端にオフの状態で電流が流れ続け,電力を消費してしまう(損失が発生してしまう)という欠点があった。
基板の裏面にもMOSトランジスタのゲート部を設ければ,裏面からの正孔注入遮断および電子の排出を効果的に行なうことができ,スイッチング損失が低減することが提案されているが,製造可能なプロセスによる両面ゲートIGBT試作とスイッチング損失低減実証は行なわれていなかった。
今回,シリコン基板の裏面にMOSトランジスタのゲート部を作りこむため,大学にクリーンルーム環境を整えた。3300V級の両面ゲートIGBTを設計し,試作したところ,裏面のMOSトランジスタも正常に動作することが確認できた。両面ゲートIGBTとして動作させたところ,従来IGBTと比較して,62%のスイッチング損失低減の実証に成功した。
今回の成果は,材料を変えずにデバイス構造を変えるだけで,シリコンIGBTが今後も性能向上が可能であることを示すもの。また,両面ゲートIGBTの損失低減効果は耐圧が高いほど大きいことから,シリコンではこれまで困難と考えられていたより高耐圧のパワートランジスタの領域(10,000V以上)へシリコンの可能性も拓くとしている。