名古屋市大ら,microRNAがタンパク質合成を抑制するメカニズムをヒトで初めて解明

名古屋市立大学は,微生物化学研究所,長瀬産業などとの共同研究により,これまで未解明であったmicroRNA がタンパク質合成を抑制する詳細なメカニズムをヒトで初めて明らかにした(ニュースリリース)。

研究具グループは,翻訳開始因子複合体eIF4Fを検出可能な新しい生化学的実験手法を開発し,microRNAがその形成にどのような影響を与えるのかについて詳細な解析を行なった。その結果,microRNAは翻訳開始因子
eIF4A(eIF4AIおよびeIF4AII)を標的mRNA上から解離させることによって,翻訳の開始を阻害していることを明らかにした。

この研究は,ヒト培養細胞を用いて行なわれたが,東京大学による解析により,ショウジョウバエにおいても同様の結果が得られた。以上から,microRNAによる翻訳開始因子複合体の形成阻害は,生物種間を越えて保存された普遍的なメカニズムであることが示された。

今回の発見は,microRNAが遺伝子発現を緻密に制御するしくみの解明につながる成果であり,その正確な理解に基づく医薬等への応用が期待される。

一方,神経特異的に発現が見られるHuタンパク質のひとつの,HuDタンパク質は神経特異的なRNA結合タンパク質で,神経幹細胞がニューロンへと分化することが決定づけられた神経前駆細胞で発現を開始し,成熟したニューロンにおいても持続的に発現が見られる。

近年では,HuDは脊髄性筋萎縮症(SMA)によって異常を来すタンパク質であるsurvival motor neuron(SMN)と一次運動野ニューロンの軸索において結合し,ある種のmRNAの局在を制御しているという報告もあり注目されている。

研究グループは以前,HuDが翻訳開始機構において翻訳を活性化する働きがあり,この翻訳の活性化は神経分化誘導に必須であることも明らかにしている。そして今回,このHuDがmicroRNAによるeIF4Aタンパク質のmRNA からの解離を妨げ,その結果microRNA による翻訳の抑制を解除することを発見した。

この結果は,翻訳因子として定義されていないRNA結合タンパク質によるeIF4Aを中心とした翻訳開始促進機構に関する初めての知見。このことは神経系においては分化のために緻密に正負に制御された独自のタンパク質合成システムが存在することを示すもの。

研究グループは今回の成果を応用することにより,ES細胞やiPS細胞を人工的に神経細胞へと分化させる手法の開発や,発症・進行のメカニズムが不明で有効な薬がない神経変性疾患治療のための創薬へとつながると期待している。

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