東北大学の研究グループは,グラフェンを二層重ねた物質(二層グラフェン)の間にカルシウム原子を挿入(サンドウィッチ)した二層グラフェン化合物について,それを形成する下地基板の特性を利用して性質を改変することに成功し,電荷密度波が生じていることを明らかにした(ニュースリリース)。
グラフェンが何層にも積層した黒鉛(グラファイト)の層間に金属原子を挿入することにより,超伝導などの新機能が生じることが知られている。この手法を応用して二層グラフェンにも金属原子を挿入して新たな特性を付与する試みがなされており,特にカルシウム(Ca)を挿入した二層グラフェン化合物では,グラフェンへの電子の注入により超伝導や金属が絶縁体に変化する現象など,様々な物性発現が期待されている。
研究グループは,二層グラフェンの層間にリチウム(Li)を挿入したもの(C6LiC6),およびカルシウム(Ca)を挿入したもの(C6CaC6)の二種類の試料を作製した。それらについて,走査型トンネル顕微鏡/分光法と光電子分光法を用いて原子の観察と電子状態の観測を行なった。
その結果,C6CaC6 において,各Ca原子の並びに加えてその2.5倍の周期で電子密度の濃淡が現れることを見出した。さらに電子状態を精密に評価したところ,エネルギーギャップが形成していることを確認した。この濃淡模様とエネルギーギャップは電荷密度波の特徴であり,グラフェンにおいては初めて観測されたもの。
そして2.5倍周期はCa原子間距離とSiC基板の結晶周期の整合関係と対応していることが分かった。この模様は同一の結晶構造を有するC6LiC6では観察されないことから,グラフェン-SiC 基板間の相互作用だけでなく,挿入された金属原子が放出する電子の数も重要な役割を果たしていることが明らかになった。
この研究成果は,透明電極や超高速電子デバイスへの応用研究が進められているグラフェンの関連物質である二層グラフェンにおいて,エネルギーギャップを伴う電荷密度波が形成されることを新たに見出したもの。その形成機構より,二層グラフェンにおいて超伝導や電荷密度波など多様な特性が競合していることが明らかになり,電子状態の制御についての知見が得られた。
研究グループは今後,グラフェン層間に放出される電子数の制御や,結晶周期性が異なる基板を使用することにより,グラフェンの伝導性の制御や,超伝導等の多様な特性を付与・制御することが期待されるとしている。
関連記事「東大,自己組織化を利用してグラフェンナノリボンを形成」「名大,市販の化合物から1段階でナノグラフェンを拡張する反応を開発」「東北大,グラフェンによる高性能な水素発生電極の開発に成功」「京大,形状と細孔サイズを自在に操れる多孔性3次元グラフェンナノシートとその簡便な合成方法を開発」