京大,負の熱膨張を持つ新しいペロブスカイト構造酸化物を開発

パソコンや携帯電話などのデバイスは,高性能化に伴い発熱が大きくなっており,その影響による構成部品の熱膨張が無視できなくなっている。現在の半導体デバイスの線幅は数10nmレベルまで微細化されているが,これに対し1℃の温度上昇で,鉄ならば約1.2㎛,アルミナセラミックスでも約0.7㎛伸びるため,位置精度を保持するのに影響が出ている。さらに,燃料電池用スタックやエレクトロニクス基板など,熱膨張率の異なる材料を用いた複合部品では,剥離や破壊といった可能性まで顕在化してきている。

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この問題対するアプローチの一つとして,ゼロ熱膨材料または低熱膨張材料の開発が求められている。具体的には従来の正の熱膨張を持つ材料と,温度が高くなることで体積が小さくなる,負の熱膨張材料を組み合わせて熱膨張特性を制御することが考えられている。

しかし,負の熱膨張を持つ材料はまだほとんど知られていないのが実情だ。わずかに知られている材料のうちZrW2O8が熱膨張係数-8.7を示すが,これは室温から680℃まで上げても体積変化は-0.4%に過ぎない。またAGCセラミックスや日本電気硝子が発売している酸化アルミニウムを利用した負の熱膨張を持つ材料の体積変化も,室温から600℃まで上げたときの体積変化は-0.5%~-0.25%程度となっている。

京都大学化学研究所教授の島川祐一氏は,作製したペロブスカイト構造酸化物を調べるうちCuとFeの2種の金属イオンが入ったLaCu3Fe4O12に,様々な興味深い特性があることを見出した。その一つが負の熱膨張で,温度が120℃に達すると-1%という巨大な負の熱膨張を示すというもの。これは川島氏が「サイト間電荷移動」と呼ぶ,イオンの価数が変わることで体積が変化するという,従来材料とは異なるメカニズムによるものだ。

この特性により,LaCu3Fe4O12と正の熱膨張率を持つ材料を組み合わせることで,コンポジットの熱膨張率を任意に制御することができるようになる。また元素の組み合わせを変えることで,負の熱膨張が起きる温度や急峻な体積変化をコントロールすることも可能だという。

さらに,この材料は温度が低い時には金属的な電気特性(導電性)を持つが,温度が上がって熱膨張が起きると絶縁体になる。また磁気特性も通常は常磁性であるのが,熱膨張後は反強磁性へと変化するという特徴も併せ持つ。これを逆に利用し,外部から電流や磁場を加えることで,熱膨張が起こる温度を制御することもできるとしている。

今回開発したLaCu3Fe4O12は,ランタン,銅,鉄の酸化物という安価で安全な材料の組み合わせによるものであり,製法も個相反応と高圧合成法によるもので簡単だという。この材料はエレクトロニクスや光学部品など熱膨張が問題となっている分野はもちろんのこと,その電気特性や磁気特性を活かした,新たな応用が見つかるのではないかと島川氏は期待している。

島川研究室HP