レーザーグレード基板の特性(3)

図6 製造工程で残留する表面下損傷

6. 表面下損傷
どの光学部品も,それがどんなに注意深く製造されたものであっても,その表面下にはある程度の損傷,例えばクラックや残留応力,コンタミや空隙等が残る。こうした欠陥は,製造工程で生じるか,あるいは使用する材料の種類や品質に起因する。これにレーザーが照射されると,表面下損傷が吸収や散乱を増加させ,熱の発生やスループット低下を招くことになる。こうした性能の不規則性は,特にハイパワーレーザーを用いている時やシステムに大きな機械的負荷がかかっている時には,システム故障につながる可能性がある。

研削と研磨工程は,研磨再堆積層(Polishing Redeposition Layer),即ちベイルビー層下に0.1μmから数十ミクロン程度の表面下損傷が残る。再堆積層は,細かい表面の傷を覆ってリフローする光学素子の最上層となる1)。再堆積層下の欠陥層(Defect Layer)には,表面下クラックや他の欠陥の多くが含まれ,一般的に光学部品表面下1〜100µmにまで及ぶ。更にその下には,欠陥のないバルク層に変わる変形層(Deformed Layer)が存在する(図6)。

不純物は,特別なレーザーグレードの研磨やクリーニング工程が用いられない限り,研磨中の再堆積層内に閉じ込められてしまうことがある。より細かいグリットを用いて研磨を行うことで,表面下損傷の量を低減することはできるが,この損傷を完全に取り除くことはできない。細かいグリットを用いて研磨すると,光学部品の品質は向上するが,その代わりに研磨作業に必要な時間は長くなり,結果としてコストアップを招くことになる。レーザーオプティクス向けに効果的な研磨工程は,深部の表面化損傷の除去を確実にするのに対し,効果的ではない工程の場合はベイルビー層下にある損傷を単に隠してしまうことになる。

7. 分散
分散は,光が光学媒質を透過する際,光学的周波数/波長といったパラメータに依存して光の位相速度もしくは位相遅延が変化する現象である。レーザーオプティクスの基板内部で生じる分散には,波長分散(図7)や多モード分散,偏波モード分散など,いくつかのタイプがある。

図7 UVグレード合成石英ガラスの波長別屈折率

屈折率は,真空中における光速と,空気やガラスなどの媒質中を通過する光波の速度比で表される。パルスレーザーアプリケーションでは,光を波長ではなく,周波数で表すのが一般的である。なぜなら,光の波長はその大きさが通過する材料の屈折率に依存するのに対し,同アプリケーションでは時間の方が一般的により重要な概念であり,また光の周波数は固定値になるからだ。波長(λ)は,角振動数(ω),屈折率(n),および光速(c)と以下の関係が成り立つ:


(1-5)

材料の屈折率は,その材料定数,B1B2B3C1C2およびC3を係数とする次式(セルマイヤの分散式)でよく表される。


(1-6)

波長分散は,媒質内での光の速度νpの大きさが波長に依存し,大抵の場合は光と媒質内の電子間相互作用から生じる。波長分散の大きさは,アッベ数(図8)を用いて表すことができる。アッベ数は,波長(λ)の屈折率に対する一次偏導関数を表し,屈折率と波長間の二次偏導関数に関連した部分分散にも対応している。アッベ数は次式で与えられる:

図8 主要な硝種の屈折率とアッベ数の関係を示すアッベダイアグラム図。CTEは熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion)を表す


(1-7)

ndnFおよびnCは,フラウンホーファースペクトルのd線(589.3 nm),F線(486.1 nm)およびC線(656.3 nm)の各波長での基板の屈折率を表す。材料のアッベ数は,波長の屈折率に対する導関数を用いてどの波長で表すこともできる。


(1-8)

図9 分散がファイバーを伝搬するレーザーパルスを時間的に拡げ,個々のパルスが認識できなくなるまでにさせる

多モード分散は,マルチモードファイバーなどの導波路内で光の群速度や光学的周波数,また伝搬モードに依存している2)。このことは,マルチモード光ファイバー通信システムにおいては,実現可能なデータ通信速度,即ちビットレートに厳しい制限を与えることになる。多モード分散は,シングルモードファイバーか屈折率分布が放物線形状を描くGI型マルチモードファイバーを用いることで,防げる可能性がある。
偏波モード分散は,高データ通信レートのシングルモードファイバーシステムに関連するモード分散で,媒質内の光の伝搬特性が偏光状態に依存している。こうした3種類の分散全てが,自由空間や光ファイバー内の超短パルス信号の時間的膨張や圧縮を招き,個々のパルスが混ざりあって各々が認識できなくなる可能性を引き起こす(図9)。

参考文献
1)Finch, G. Ingle. “The Beilby Layer on Non-Metals.” Nature, vol. 138, no. 3502, 1936, pp. 1010-1010., doi:10.1038/1381010a0.
2)Ghatak, Ajoy, and K. Thyagarajan. “Optical Waveguides and Fibers.”University of Connecticut, 2000.




Characteristics of Laser Grade Substrates 3
■Edmund Optics Japan Co., Ltd.

<お問合せ先>
エドモンド・オプティクス・ジャパン㈱
TEL: 03-3944-6210
E-mail: tech@edmundoptics.jp
URL: www.edmundoptics.jp

同じカテゴリの連載記事

  • 図9 誘電体膜のHRコーティングは,フレネル反射の増加的干渉(Constructive Interference)を利用して金属膜反射鏡のそれよりも高い反射率を実現する
    オプティカルコーティング(3) 2021年03月01日
  • オプティカルコーティング(2)
    オプティカルコーティング(2) 2021年02月01日
  • オプティカルコーティング(1)
    オプティカルコーティング(1) 2021年01月01日
  • 図1 MIL-PRF-13830Bは,40 Wの白熱ランプまたは15 Wの昼光色蛍光ランプ下での目視検査を規定する
    表面品質 2020年12月01日
  • レーザーグレード基板の特性(2) 2020年10月01日
  • レーザーグレード基板の特性(1) 2020年09月01日
  • ビーム品質とストレール比(2) 2020年08月01日
  • ビーム品質とストレール比(1) 2020年07月01日