分子の自己組織化を用いた機能性色素の創製と発光性センサー材料の開発

1. はじめに

近年,エネルギー変換材料への応用を志向した機能性色素の開発が益々注目を集めており,有機エレクトロルミネッセンス発光体,色素増感太陽電池,色素レーザー,農園芸用波長変換材料,セキュリティインク,バイオイメージング材料などの最先端科学での需要が高まっている1)。有機化合物からなる機能性色素は,ほぼ無限の分子設計が可能なことに大きな強みを持ち,計算化学(コンピュータを用いた性質予測)と有機合成化学との融合により,所望の性質を持つ機能性色素の創製が可能となりつつある。

しかしながら,希薄溶液中では素晴らしい性質(例えば着色や発光など)を示す機能性色素であっても,濃厚溶液中,粉末,薄膜,フィルムなどの凝集状態では,色素同士がランダムな会合体形成や濃度消光を起こすため,発光効率,発色性,光感受性などの色素本来の性質が大きく損なわれることが問題点として挙げられる。そのため色素の分子構造を改良することで,溶解度の向上やランダムな凝集を防ぐ方法が検討されている。言い換えると分子の集積状態をナノレベルオーダーで制御すれば機能特性の更なる向上が期待できる。一方で多段階かつ煩雑な合成による生産コストの増大も避けるべき課題である。

筆者らは,複数成分の有機化合物を混ぜ合わせるだけで新たな機能性色素の創製ができないか?と考え,近年研究を進めている。粉末(微粒子)を混ぜ合わせることを意図しているのではなく,既存の有機化合物(簡単に入手可能な分子)をナノレベルオーダーで組織化し,新たな発色性や発光効率の向上を示す機能性色素の創製を目指している。一般に有機化合物は,長方形,正方形,球形のような形状や,いびつな3次元構造を有する。そのため2種類,3種類以上の異なる分子を均一に混ぜ合わせ,整然と並べる事は挑戦的な課題である。2)これは無機化合物や金属有機構造体を基本とする材料とは大きく異なる点である。本寄稿では,複数成分の分子の自己組織化を利用した機能性色素の創製法に関する著者らのアプローチを紹介する。

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