有機EL照明・ディスプレイの高効率化を支える材料開発の動向

有機EL照明・ディスプレイの研究・開発が活発化している。現在普及期にあるLEDとは異なり,照明やディスプレイ用途において有機ELは依然として開発課題が多いのが実情だ。

有機EL照明

去る3月5日に日本光学会・微小光学研究グループ主催による第131回研究会「明るく照らす微小光学―照明技術の最前線―」が開催されたが,この中で,「有機EL照明―その材料と応用動向」について講演した山形大学有機エレクトロニクスイノベーションセンター・准教授の硯里善幸氏は,「有機EL照明が一般照明として普及するために必要な開発要素は,効率・寿命・保存性などの“基本性能の確保”,フレキシブル・軽量・超薄型透明化といった“高付加価値化”,塗布プロセスを適用した“低コスト製造技術”の3つ」を挙げた。

有機EL照明パネルを巡っては,一部が実用化に至っているものの,商品化されている有機EL照明パネルの多くは発光層を多段にすることで,発光性能を稼いでいる。真に高効率化を図るには,有機EL材料の性能を向上させる必要がある。

硯里氏によると,有機EL材料別における量子効率は,理論的に蛍光材料が内部量子効率25%/外部量子効率(光取り出し効率を20~25%とした場合)5~6.25%,リン光材料が同100%/同20~25%,TTA(Triplet-Triplet Annihilation)が同40%/同8~10%,TADF(熱活性化遅延蛍光)が同100%/同20~25%という。

こうした発光材料の効率向上に向けての改良・開発は,各方面で進められている。発光材料の中でも有力となっているのがリン光材料で,イリジウム錯体や白金錯体を用いたものが成果を挙げている。しかしながら,イリジウムがレアメタルであるうえ,今後の普及を考えた場合,資源確保のリスクを懸念する向きもある。

もちろん,効率向上を含め,こうした課題も今後の研究・開発によって解決していくものと期待されているが,一方で,レアメタルを含まない材料の開発も行なわれている。TADF方式だが,最近ではそれまで課題となっていた青色開発で成果が発表された。

これは九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター・教授の安達千波矢氏らの研究グループによるもので,電子を供与しやすい性質(ドナー)と電子を受取りやすい性質(アクセプター)を有する分子構造を組み合わせることで実現した。青色の熱活性化遅延蛍光を発するDMAC-DPSを用いて有機EL素子の評価を行なった結果では,最大外部量子効率が19.5%に達したという。(関連記事

青色発光デバイスではTTA方式によるものが比較的作製しやすいとも言われているが,実用材料の実現に向けた,これら候補に上がっている材料の今後の研究・開発の展開が注目されている。

また,「発光材料が外部への光取り出し効率の向上を可能にする」と硯里氏は先の講演でも語った。発光材料の分子配向を制御することで,発光に指向性をもたせることができるというもので,実際にPt錯体を用いての報告やイリジウム系錯体を利用した例があるという。

光取り出し効率の向上にはフィルムシートの貼付や,表面にサブミクロンオーダの微細な構造を作り込むといった工夫によっても達成されているが,「発光材料でも可能になれば,複雑な光取り出し構造が不要になるので,低コスト化につなげることができる」(硯里氏)とし,今後の重要な技術テーマの一つになるとしている。