京大,太陽光による水素製造法と水素化手法を開発

京都大学は,太陽光のエネルギーを駆動力として利用する持続可能な水素製造法および水素化手法を開発した(ニュースリリース)。

現在,市販されている水素の90%以上は化石資源を原料として合成されており,再生可能な資源を利用する技術へと置き換えることが必要とされている。

エタノールはバイオマスの発酵によって作られる再生可能な資源で,優れた水素の原料でもある。しかし,エタノールから水素を取り出すにはエネルギーを投入する必要があることから,再生可能なエネルギー源を用いた手法の開発が求められていた。

水素に関するもう一つの難題として,可燃性,爆発性を有する水素を安全かつ簡便に貯蔵する方法の開発がある。水素を安定な有機化合物に貯蔵する水素キャリアを利用する手法が注目されているが,水素を貯蔵する際や発生する際に多大なエネルギーを必要とすることが課題だった。

研究グループは今回,入手の容易な有機化合物であるケトン1の光反応に着目した。ケトン1のエタノール溶液を,食品の保存に用いられるハイバリア性のビニール袋に入れて密閉し ,太陽光を照射すると,ケトン1が太陽光を吸収して反応して,エタノールから水素を獲得し,1,2-ジオール2が生成した。

生成した1,2-ジオール2は太陽光に由来するエネルギーを化学エネルギーとして蓄えている。これにパラジウム触媒を作用させると蓄えたエネルギーを駆動力として水素ガスを発生して,ケトン1に戻ることを発見した。

発生した水素ガスは有機化合物の合成に利用でき,得られたケトン1は太陽光とエタノールを用いて再度1,2-ジオール2に変換できた。すなわち,1,2-ジオール2は再生可能資源である太陽光とエタノールを利用して再生できる水素キャリアとして働いていることになる。

また,1,2-ジオール2は常温・常圧で固体であり,ありふれたプラスチックのボトルで保存できる。常温・大気下で,少なくとも半年は分解することなく保存することができたという。

今回の成果は,太陽光のエネルギーを駆動力として,再生可能資源であるエタノールを水素源として水素を製造したり,有機化合物を水素化する簡便な手法を提供するもの。太陽光のエネルギーを利用して1,2-ジオールを合成して貯蔵しておき(曇天や小雨でも反応は進行することを確認している),必要な時に水素を発生させることができる。

また水素ガスを安全に貯蔵するには,水素ガス検知機能を備えた排気システムなどが必要だが,今回開発した水素キャリアは常温・大気下で保存できるので,大掛かりな施設を必要とせず,簡便な水素発生方法として期待されるとしている。

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