北大ら,LED害虫トラップ開発に向けた知見

北海道大学,東日本高速道路,ネクスコエンジニアリング北海道らは,害虫を選択的に誘引するライトトラップの開発に向けた基礎的知見を得た(ニュースリリース)。

北海道の森林面積は日本の都道府県で最も広く,夏も短いため,観光シーズン真っ只中に森林昆虫が大量発生する。北海道の高速道路は森林地帯を通過するため,お盆時期に休憩施設の人口光源に大量のガが飛来する。

特に,マイマイガやクスサンは翼長6~10cmと大きく,休憩施設への定着・産卵,ひいてはETC(電子料金収受システム)の目詰まりをおこす。しかし,休憩施設には多くの利用者が集まるため,農薬の散布を控える必要があり,「環境にやさしい飛来虫防除法の開発」が望まれていた。

環境への負荷の少ない昆虫の制御法としてフェロモン剤を用いた誘引や特定の種に感染するウイルスなどを用いた防除法があるが,コストの面から現実的ではない。そこで,誘引性の高い光波長を備えたライトトラップをバックヤードに設置することで,休憩施設へのガのよりつきを減らす狙いで実験を進めた。様々な仕様,波長のLEDトラップを高速道路沿線に設置し,気象条件や光波長の違いとトラップされる昆虫種の関係について調べた。

その結果,
・光に誘引される昆虫はマイマイガ,クスサン以外に多くの甲虫類(コガネムシ,クワガタムシ,カブトムシ)や水生昆虫(トビケラ,ヘビトンボ)など11目65種に及び,高速道路沿線の生物多様性が豊かであることが示された。
・飛来虫は種特異的な光波長への嗜好性を持っていた。防除対象であるマイマイガ,クスサンは低波長の光を好むが,紫外線域(UVA)よりもむしろ可視光との境界域(380nm)に誘引される傾向があった。一方,水生昆虫(トビケラ,ヘビトンボ)や羽アリは波長選択性が低く,暖色系の光源にも誘引される傾向があった。
・光源の中にわずかでも低波長の可視光(380-430nm)が含まれていると,これが含まれない光と比べて2倍以上のマイマイガが誘引されることがわかった。
・気温,月齢,風速,降雨,視程,などの気象パラメータ中で日没時の気温が20℃を超えたときにマイマイガの群飛が最も起こりやすく,大量のガが捕獲されることがわかった。

世界的な森林害虫であるマイマイガの大量発生は11年周期で起こるとされており,2012年~2014年におきた全道的大発生から8年を経て次の大量発生が近づいている。今回の成果はガの群飛がおこりそうな気象条件の日に適正な波長を実装したトラップを設置することによって,マイマイガやクスサンの選択的防除が可能となることを示すもの。研究グループは,現在,適正な光波長を実装したLEDトラップを作成中としている。

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