阪大,レーザーで冷中性子の発生に成功

大阪大学の研グループは,大阪大学レーザー科学研究所のレーザー施設「LFEX2」を使った新しい方式で,エネルギーの低い中性子=冷中性子(れいちゅうせいし)を発生することに成功した(ニュースリリース)。

冷中性子はX線と同程度の波長(約10億分の1メートル)をもつため,回折や干渉を利用して物質の構造解析に利用できる。加えて,高い透過能力を持つことから,X線より深部の情報を得ることができる。また,冷中性子は粒子として水素とほぼ同じ質量を持つことから,X線では得られない水素などの軽い元素を,散乱や反射を使って調べることもできる。

これまで,冷中性子を得るためには,原子炉や加速器といった施設が必要だった。日本では,日本原子力研究開発機構の研究炉「JRR-3」や,大強度陽子加速施設J-PARCが代表的な施設となっている。

大阪大学レーザー科学研究所では,レーザーの強い光を厚さ数ミクロンの薄膜に集中してイオンを加速し,それを中性子に変換する「レーザー駆動中性子源」の研究を行なってきた。この研究成果では,極低温(マイナス262℃)に冷却した水素の氷を使って,レーザーで冷中性子を発生することに,世界で初めて成功した。

東日本大震災以降,新しい原子炉を建設することは困難になっている。レーザーという新しい方法で冷中性子を発生できれば,企業の研究所などにも設置できる装置につながる。また,タンパク質分子は,短い時間に素早く動くことで,物質(水素など)を運ぶといった,生物にとって重要な働きをすることが知られている。

タンパク質分子が動く時間は1万分の1秒以下であることが知られている。冷中性子はX線と同程度の波長を持つと共に,X線では得られない水素を調べることができる。この成果で得られた短い時間パルスの冷中性子は,短い時間に起きるタンパク質の動きやはたらきを,瞬間的に計測できる新しい手法につながるものだとしている。

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