産総研ら,半年間の光格子時計の高率稼働に成功

産業技術総合研究所(産総研)と横浜国立大学は,光格子時計の長期間にわたる高稼働率運転を世界で初めて達成した(ニュースリリース)。

産総研は2009年にイッテルビウム光格子時計を開発。また,安定に動作し,周波数雑音の極めて小さい世界最高水準の光周波数コムも開発してきた。2018年には,これまで問題であったレーザー周波数の不安定性を解決するため,光周波数コムを応用してレーザーを安定化する手法を採用し,イッテルビウム光格子時計を数か月で60時間以上の運転を実現した。

イッテルビウム光格子時計では,イッテルビウム原子減速用のレーザー(399nm),原子冷却用のレーザー(399nm,556nm),光格子用レーザー(759nm),時計レーザー(578nm)など多種多様なレーザーを複数用いており,継続して光格子時計を正しく動作させるには,これら全てのレーザーの周波数やパワーを極めて高い精度で制御し続ける必要がある。

イッテルビウム光格子時計には周波数ロックなどの多数のフィードバック制御が組み込まれているが,現在の制御方法ではわずかな気温や気圧の変化,振動や音響ノイズなどの外的要因により制御が中断される場合があり,光格子時計の運転時間を短くする要因となっていた。そのため,光格子時計を運転する際には,中断した装置を再起動するために対応できる担当者が実験室内にいる必要があった。

今回の開発では,無人連続運転を可能にするために各レーザーの周波数オートリロック機能を開発し制御システムに導入した。この機能により,各レーザーの周波数ロックが何らかの理由で中断しても,その異常を瞬時に検知して自動で元の周波数に戻せるため,光格子時計の運転を継続でき,その結果無人運転が可能になった。

2019年10月から,これらの機能を導入したイッテルビウム光格子時計の運転を開始し,2020年3月までの半年間(185日間)の稼働率は80.3%に達したという。稼働率90%を超える月もあり,時間周波数国家標準の周波数の揺らぎをリアルタイムで観測できた。185日間はこれまでの記録を大幅に更新するとともに,人工衛星を介して行われる時計の遠距離比較精度も16桁の精度で国際原子時の監視を実現したという。

これまで困難であった光格子時計の無人運転を実現したことで,現在,国際原子時の運用に大きく貢献しているセシウム原子泉方式一次周波数標準器などと同様に,光格子時計が高い稼働率を継続して国際原子時へ寄与できることを示した。研究グループは今後,秒の再定義に向けた検討がさらに加速されることが期待されるとしている。

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