東北大,レーザーの水ジェット発生機構を解明

東北大学は,光ファイバー先端での液体ジェットの発生メカニズムを数値シミュレーションにより解明した(ニュースリリース)。

レーザー治療は光ファイバーを用いると,内視鏡やカテーテルなどとも親和性が高く,体内で局所的にレーザー光を照射できるという利点がある。強いレーザー光を生体組織に吸収させ,温度を上昇させることで患部を切除する手法はこれまで広く研究されてきた。

その一方で,近年,血液中や組織液中に光ファイバーを設置しレーザー照射すると,光ファイバー先端で微細な気泡が発生したり,比較的大きな気泡が発生・消滅し,まるで光ファイバーから液体が噴出するように液体ジェットが発生したりといった流体力学的な現象が見出され,医療への応用が期待されている。

研究は,この液体ジェットが発生する現象のメカニズムを解明することを目的に行なわれた。光ファイバー先端からレーザーが液体に照射されると,レーザーのエネルギーにより液体が沸騰する。発生した気泡は,液体が吸収したレーザーのエネルギーを使って膨張するが,周囲には温度の低い液体があるため,気泡は急速に冷却され収縮する。

このような気泡が変化することは高速度カメラを用いた実験により確認できていたが,なぜ液体ジェットが発生するのかは説明できていなかった。そこで,光ファイバー先端に存在する気泡が凝縮により収縮する過程の数値シミュレーションを行ない,気泡の形状変化と周囲の液体の流れを詳細に検討した。

光ファイバー先端で沸騰により生じた気泡は,周囲の液体に冷やされて収縮する。収縮により周囲の液体が光ファイバー先端に向かって流れていく。この流れにより,光ファイバー先端の気泡は円注状に潰れることがわかった。気泡が円柱状に潰れることにより,流れは光ファイバー中心軸上で衝突し,向きを変える。その結果,光ファイバー先端から離脱する方向にジェットが発生する。

その結果,渦の形成が確認された。条件によって円注状だけではなく円錐状に潰れることもわかった。すなわち,気泡が円柱や円錐状に潰れること,それに流れが中心軸上で衝突すること,衝突によってジェットが発生することが明らかになった。

一連の数値シミュレーションを通じて,周囲の液体の温度が低いとき,また収縮直前の気泡が大きいとき,より高速なジェットが発生することがわかった。今後は,この研究成果を発展させ,より低い出力のレーザーで高温の高速ジェットを発生させる条件を見出すことで,より安全かつ効果的なレーザー治療の実現が期待されるとしている。

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