名大ら,蝶々型の電子の空間分布を直接観測

名古屋大学,米国ウィスコンシン大学ミルウォーキー校,理化学研究所,東京大学,分子科学研究所,高輝度光科学研究センターは共同で,大型放射光施設SPring-8のX線回折実験によって,0.2Åの分解能で電子の空間分布を直接観測することに成功した(ニュースリリース)。

固体物質の機能・性質は,構成原子の電子のうち,一番外側を回る電子(価電子)の「軌道」状態に支配される。また,遷移元素の3d電子軌道は蝶々型や瓢箪型といった形をしているとされるが,このような軌道を持つ電子の実空間分布状態の直接観測は困難だった。

研究グループは放射光X線回折を用いたコア差フーリエ合成(CDFS)法による電子密度解析手法を提案している。CDFS法は軌道状態の量子力学的モデルに依存せず,物性に寄与する価電子の情報のみを効率的に抽出することができ,その形状から軌道状態の実空間観測を可能とする。

今回,その空間分解能を更に高め,原子内に局在した3d電子軌道の観測に挑んだ。対象として,ペロブスカイト型酸化物YTiO3を選択した。モット絶縁体であるYTiO3において,磁気的な性質を担うのは+3価のTiイオン。Ti3+イオンは19個の電子を持つが,その物性は異方的な3d軌道の1個の価電子に支配され,局在した3d電子は蝶々型の形が期待される。

この物質に対してCDFS解析を行なうと,Tiイオンが蝶々型の形状の価電子密度分布を持つことが観測された。これは結晶場理論で予想される3d 1電子軌道分布に極めてよく一致し,過去に予想されてきた報告とも概形はよく似ていた。そして,この軌道状態は,この物質が強磁性体になるとsする理論とも整合した。

しかし,得られた価電子密度分布には,本来3d軌道の節(電子密度がゼロ)となる中心部分にも電子密度が存在していた。化学分野で良く知られる配位子場理論は金属イオンと配位子間で混成軌道の形成を示唆するが,混成軌道に占有された電子は結合する二つの原子間に拡がって存在すると漠然と考えられていた。

CDFS解析の結果は混成軌道に占有された価電子が実空間において3d軌道の節に存在するという非自明な描像を明確に示し,第一原理計算の結果も,CDFS解析の軌道混成を極めてよく再現した。つまり,CDFS法を用いることで軌道混成まで含めた系全体の軌道状態を価電子密度分布から直接決定することに初めて成功した。

CDFS法では得られる電子密度解析の結果は実験で得られるデータの質のみに依存し,原理的に系の物性によらず全ての元素に適用できる。今後,電子軌道の研究の幅広い展開が期待されるといている。

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