電通大ら,シリコンの高感度赤外線受光素子を開発

電気通信大学,富山県立大学,東京大学の研究グループは,半導体集積回路と統合しやすいシリコンを材料に用いて,感度の高い赤外光の受光素子を作製した(ニュースリリース)。

半導体集積回路やCMOSイメージャなどの素子では,半導体材料としてシリコンが広く用いられている。しかし,シリコン単体では材料の制約により,1,100nm以上の赤外光を検出することができない。そのため,赤外線検出には半導体集積回路との親和性の低い,化合物半導体などが利用されてきた。

ただし,化合物半導体の材料はシリコンの10倍程度と非常に高価で,環境負荷も高い。シリコンで赤外光を検出できれば,受光素子と集積回路を高度に統合させ,高機能なデバイスができるが,これまで,シリコン上に金属ナノアンテナを形成することで赤外検出を行なっている研究は,感度が十分ではなく,性能の向上が求められていた。

研究グループは,シリコン上に開口150nm四方,深さ560nmの微細な穴(ナノホール)を多数掘り,穴の底に銅を熱蒸着法で堆積させることで,シリコン中に埋め込まれた金属ナノアンテナ構造を形成した。金属構造をナノメートルサイズに微細にすることで,テレビの受信アンテナと同様に,光に対するアンテナとして機能することを利用した。

この構造に赤外光を照射すると,金属ナノアンテナ構造において,光により電子が力を受け,表面プラズモン共鳴が発生する。電子の共鳴振動により光が吸収され,そのエネルギーは金属ナノアンテナ内部の電子を励起するので,金属とシリコンの界面に形成されるショットキー障壁を乗り越えて,電流信号として赤外光を検出可能になる。

MEMSによる半導体微細三次元加工技術を用いて作製した金属ナノアンテナ構造において,ナノホールの寸法をパラメータとして感度を計測した結果,開口150nm四方,深さ560nmのナノホールを500nm間隔で密にアレイ配置したとき,1550nmの近赤外光照射に対して9.8mA/Wと,これまでに報告されているシリコン製のアレイ型赤外検出素子では最高の感度を得たという。

今回,赤外光がシリコン越しにアンテナに入射するよう,素子の裏側から光照射する構成とすること,そして,金属ナノアンテナがシリコンに埋め込まれた構成とすることにより,光を電流に変換する効率が向上し,高い感度が得られることがわかった。

この成果で得られた高感度赤外受光素子は,安価で半導体集積回路との統合が可能なため,赤外光イメージャや各種センシング用途への応用が可能だとしている。

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