筑波大ら,湿度で変色する分子性多孔質結晶を開発

筑波大学,大阪大学,九州大学,東京大学,高輝度光科学研究センター,東京工業大学,リガク,スペイン マラガ大学は,湿度変化に応じて大きな発色変化を示す分子性多孔質結晶を開発した(ニュースリリース)。

大気中の蒸気成分の検出手法の一つに,物質が特定の蒸気を取り込んだり,反応することで色が変化する特性であるベイポクロミズムを利用する方法があり,吸湿により青色から赤色へと変化するシリカゲルが知られている。近年では,非常に小さな孔を含んだネットワーク構造を用いた研究が進められているが,これらの多孔質結晶は,湿気の高い環境中では徐々に劣化してしまう欠点があった。

研究では,分子間の結合によるネットワークを形成せずに,弱いファンデルワールス力のみで集合化した分子性多孔質結晶(VPC-1)の構築に成功した。この結晶は,溶媒分子がない状態で,さらに60°C程度に加熱しても,多孔性の結晶構造が保持される。

この多孔質結晶の空洞は,大気中の気体分子や蒸気を,取り込んだり放出したりすることができまる。加えて,周辺に存在する分子の極性を検知して色が変わるという特性をもっている。とりわけ,極性の高い水分子に対しては鮮明な色変化を示し,乾燥状態(湿度40%以下)では黄色,湿潤状態(湿度50%以上)では深い赤色になる。

水分子の取り込みに伴う結晶の色変化について,各種スペクトル測定およびX線回折測定により詳細に解析したところ,色変化は,室温(25°C)において湿度50%近辺を境に,急激に起こることが明らかになった。また,色変化の際,結晶構造はほとんど変化しないことがわかった。

スペクトル情報とその解析から,湿度が上昇すると,孔の表面に存在するプロペラ部位(最外殻に存在するカルバゾール部位)が回転し,親水的な表面へと変化する。その結果,この結晶は大気の湿度が一定の値を越えると急速に水分子を取り込み,それに伴い発色が変化すると考えられるという。

この分子性多孔質結晶は有機分子のみで構成されていることから,色変化が起こる湿度条件の制御や多色化,高感度化といったさまざまな機能を付与することができる。従って,シリカゲルのような従来の色変化湿度センサーにはない,厳密な湿度管理や,迅速な湿度検出が実現できる可能性があるという。

また,これまで微細孔構造を安定化するために必要不可欠とされてきたネットワーク構造をもたない材料設計に成功したことは,耐水性の低さという従来の有機多孔質結晶が抱えていた欠点を本質的に解決しうる技術であり,研究グループでは,材料設計の自由度を大きく広げる重要な知見だとしている。

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