理研,液晶でソリトンの発生と制御に新知見

理化学研究所(理研)は,液晶テレビなどに用いられているネマチック液晶において,「ソリトン」と呼ばれる粒子性を持ったパルス状の波が安定に発生し,伝搬・停止・伝搬方向などの運動状態を能動的に制御できることを明らかにした(ニュースリリース)。

ソリトンは粒子性を持ったパルス状の波で,「孤立波」とも呼ばれ,慣性運動や反射といった質点粒子に似た振る舞いが頻繁に観察されることが知られており,水路中の波から台風や銀河といった自然の構造体から,光パルス,原子冷却系などさまざまな物理系にも見られる。特に,磁性体における電子スピンのソリトン構造「スキルミオン」は,トポロジカルな粒子の一種として,情報・エネルギー担体としての活用という観点からも注目を集めている。

スキルミオンに似た粒子様のソリトン構造は,液晶テレビなどに普遍的に用いられているネマチック液晶の分子配向場でも生じる。最近では,ホプフィオン,ベビースキルミオンと呼ばれる液晶のソリトン構造が注目を集めているが,これらの多くは基本的には時間的に止まった構造であり,構造を保ったまま伝搬するなど動的な性質を持たない。

今回,研究グループは,誘電異方性,導電異方性の異なるネマチック液晶と少量のイオン種を混合した試料に電場を加えると,ソリトンが発生することを確認した。電場の印加条件をさまざまに変えてゆくと,ソリトンは次々に生成され<反発し合って配列したり,一方向に動いたり,互いに反射し合ったり避け合ったりと,実在の粒子に似たダイナミクスを示した。

さらに高い電圧では,ソリトンが同期分裂してゆき,フラクタルな軌跡を示した。これは,分子配向場の歪みが局在化した波がパルス状に伝搬するというソリトンの性質を表している。さらに,この状態がイオンの局在化による「フレデリクス転移」,「電気対流効果」などが競合した複雑な非平衡状態であることを示した。

この研究成果は,ネマチック液晶が非平衡系として未知の物理ダイナミクスを秘めていることを示すものだという。物理学におけるソリトンは,スキルミオンなど量子現象でも重要な概念であり,その学理探求は基礎だけでなく,将来の応用にもつながるとしている。

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