東北大ら,高線量下で発光するシンチレーター開発

東北大学,三菱電機,京都大学らは,20mの光ファイバーと新規発光体を用いて,空間線量1kSv/h程度までの超高線量の幅広い線量領域で,リアルタイムに線量の測定が可能であることを初めて示した(ニュースリリース)。

放射線を読み出すには固体のシンチレータ結晶が取り扱いが簡便なため,よく利用されている。シンチレータ(特に無機結晶)自身は,放射線への耐性が,半導体などに比べて強い。そこで,空間線量の高い福島第一原発ではシンチレータを高い線量の炉内に入れ,光ファイバーを使ってシンチレータからの光を比較的線量の低いエリアまで取り出すという方法が考えられている。

ただし,炉の外側の線量の低いエリアまでシンチレータの光を伝搬させる必要があるため,光ファイバーの長さは100m,もしくはそれ以上の長さになる可能性があり,非常に明るいシンチレータである必要がある。また,光ファイバーは,青色・緑色よりも短い波長(おおよそ 600nm以下の波長)や赤外線よりも長い波長(おおよそ1300nm以上の波長)では,ファイバー内の伝送効率が悪く,光を遠方まで伝えられない。

既存のシンチレータの発光波長はおおむね550nm以下のものが大半なため,高い発光量を持ち,なおかつ600nm~800nm程度に発光波長をもつ新しい材料の開発を行なった。

開発した新規シンチレータ(Cs2HfI6)を透明な樹脂でパッケージした素子を開発した。この素子は,発光波長がおおむね600nm~800nmにわたり,かつ,発光量も既存の青色発光シンチレータで最高発光量と同程度の50,000光子/MeVを示した。さらに,蛍光寿命はおおよそ2マイクロ秒と,既存の赤色発光体であるルビーよりもオーダーで1/100程度以上短い。

実験を,局所的ながら空間線量が廃炉の環境より高いと考えられるコバルト60照射施設にて,20m長の光ファイバーを分光器付きCCDカメラに取り付けて行なった。その結果,1kSv/hまでの幅広い線量の領域で測定でき,線量に応じて発光強度が大きくなっていることが分かった。

また,ルビーに比べてCs2HfI6は10倍程度の発光強度があることも分かった。さらに,ルビー結晶は同じ空間線量においても,明るさが一定になるのに30分以上かかることがわかった一方で,Cs2HfI6はすぐに発光するため,リアルタイムで正確な線量を測定することが可能と分かった。

研究グループは今後,台車ロボットとより長い長さの光ファイバーを用いるなど,実際の現場での利用に向けた作業をすすめるとしている。

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