総研大ら,重力波検出器の量子雑音低減技術を実証

国立天文台,総合研究大学院大学(総研大),東京大学,電気通信大学,仏,オランダ,米,台湾,独,伊の研究グループは,重力波望遠鏡の感度を上げる新たな技術を世界で初めて開発し,その実証に成功した(ニュースリリース)。

この開発と実証には,国立天文台三鷹にある重力波検出器TAMA300が用いられた。

現在稼働中の干渉計型重力波望遠鏡は,重力波到達時に離れた鏡の間に生じるわずかな距離の変化を精密に測定して,重力波を検出する。鏡の間は数km離れているものの,その変化は極めて小さく,量子力学的に避けられないゆらぎまでも制御しなければ重力波の検出はできない。

このゆらぎは,波の位相と振幅との両方に現れ,どちらかを小さく抑えるともう一方が大きくなるという性質がある。位相のゆらぎは高周波数の雑音を,振幅のゆらぎは低周波の雑音を発生させる。周波数に応じて小さくしたいゆらぎを選ぶことができれば,雑音を小さくできる。

研究グループは,TAMA300を改造し,ゆらぎを制御する技術の開発を行なった。TAMA300は300mの基線長を持つプロトタイプのレーザー干渉計型重力波検出器。

研究グループは長さ300mのフィルター共振器を構築し,この長い基線長と,KAGRAの開発で培われた防振制御などの最新技術を応用して,大型重力波望遠鏡で必要とされる100ヘルツ以下という低周波におけるゆらぎの制御の実現に成功した。このような低い周波数でのゆらぎの制御はたいへん難しく,これまで成功例がなかった。

この技術は,KAGRAのみならず,米のLIGO,欧州のVirgoといった世界中の重力波望遠鏡の次期アップグレードで採用される予定で,その実現性を世界に先駆けて実証したことは大きな意義がある。この技術を実装することで,現在よりも感度は約2倍,観測可能な重力波現象の数は8倍となる。

より多くの重力波現象を観測することで,ブラックホール連星の形成過程や一般相対性理論の精密検証,中性子星の諸性質の解明や,宇宙における重元素の起源など,宇宙に関するさまざまな新しい知見が得られることが期待されるとしている。

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