東大ら,天体分光器のファイバー位置決め装置を試験

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) を中心とした研究グループが製作を進める,超広視野多天体分光器PFS(Prime Focus Spectrograph)の一部である「メトロロジカメラシステム」の試験観測が2019年8月に実施された(ニュースリリース)。

PFSは,すばる望遠鏡に搭載される次世代基幹観測装置の一つとして,2022年の運用開始を目指している超広視野ファイバー多天体分光器。すでに稼働中の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) と共に,すばる望遠鏡の8.2m口径による観測効率を飛躍的に向上させるもの。

PFSは,望遠鏡やドームのあちこちに設置された複数のサブシステムが望遠鏡と連携して動作し観測を遂行する。すばる望遠鏡の主焦点の直径1.3度の視野内に,約2400本の光ファイバーを配置。各々の光ファイバーは,10数ミクロンという精度で観測したい星や銀河へ向けられ,捕らえられた多数の天体からの光は,380nm~1260nmのスペクトルとして一度に分光観測される。

この光ファイバーを天体に向ける過程で,1本1本のファイバーの位置を正確かつ素早く測定する「メトロロジカメラ」が重要な役割を果たす。メトロロジカメラは台湾の中央研究院天文及天体物理研究所が開発を担当し,すばる望遠鏡のカセグレン焦点に取り付けられるカメラ。

50メガピクセルのCMOS検出器を使って1枚の露出で全てのファイバーの位置を測ることができる。ファイバーの配置をするときには,分光器の側からファイバーを照らし,メトロロジカメラの向けられている焦点面側の端を光らせ,それをメトロロジカメラで撮像し位置を測り,この位置情報を基にファイバーをその分だけ動かす。

一昨年の2018年4月にハワイへ到着したメトロロジカメラは,ピンホールマスクシステムを使い,試験と調整を繰り返した。その結果,視野全体で,均質で良質なピンホール像が得ることができた。また,視野の場所に依らず同じような大きさの像が得られたことに加え,像の大きさや形は望遠鏡を傾けても安定した。

このピンホールマスクシステムを使い,装置制御ソフトウェアの開発と試験も行なわれる。画像データからファイバー先端の場所を正確に測定するのに加え,ファイバー位置制御装置に伝達して解析するメカニズムや,解析結果を表示するツールの実装や実証を行なった。

今後は問題点や未達な部分を精査し,ファイバー位置制御装置が望遠鏡に搭載された際にスムーズに試験が進められるよう,ソフトウェアの開発も進める予定としている。

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