千葉大,重原子含有分子で直接S0→Tn遷移を実証

千葉大学の研究グループは,可視光を照射したヨウ素含有分子において,これまで見過ごされてきた電子遷移である「S0→Tn」という機構が実際に進行していることを実証した(ニュースリリース)。

可視光を利用した物質創製技術においては,光をエネルギー源として物質に起こる光反応をうまくコントロールし,狙い通りに物質の構造の変化を引き起こすことが重要となる。

しかし重原子の一つであるヨウ素を含有する分子では,本来分子が吸収できないはずの可視光によって光反応を起こしているという「謎」がある。物質の光反応を完全に理解しコントロールするには,光反応を引き起こすメカニズムを更に詳細に調査し,この謎を解明することが求められていた。

光反応のメカニズムとして,これまでの教科書的な理解では,分子が光を吸収すると,原子核の周りの電子が移動し,分子の状態は吸収前の基底状態 S0から,吸収後にはS0→Sn→S1→T1という順序で遷移し,T1の状態から光反応が進行することが知られていた。

研究グループは光反応の進行において,これまで見過ごされていた遷移経路である直接「S0→Tn」遷移に注目し,ヨウ素含有分子が可視光によって光反応を起こす背景には,「S0 →Tn」遷移が働いているという仮説を立てた。

直接「S0→Tn」遷移を観測・証明すべく,研究グループはまず,ヨウ素含有分子に対して光に関する様々な物理的特性を測定した。吸収波長や蛍光発光,りん光発光などを詳しく調査したところ,S0→Tn遷移が進行していることを実証し,当該分子におけるこの遷移の進行を発光特性の測定によって初めて証明することに成功した。

S0→Tn遷移を引き起こす光は,一見すると分子が吸収できない光のように観測される。そこで,研究グループは,ヨウ素含有分子以外の重原子含有分子においてもS0→Tn遷移によって光反応が進行するのかを確かめるため,化学的な検証を行なった。

その結果,ヨウ素(I)だけでなく,臭素(Br)やビスマス(Bi)といった重原子含有分子においても適用される一般的な現象として,一見吸収できない光をエネルギー源として,光反応に特有なラジカル反応が進行することが明らかになった。

これらの結果から,上述の“謎”の答えは“直接的なS0→Tn遷移”であることを物理実験的にも化学実験的にも証明することができ,この仮説が立証された。

今回の研究成果は,教科書の内容を刷新する画期的な発見だという。技術的な応用面では,これまで光反応に用いられてきた紫外線は様々な分子を破壊し,反応の制御が困難だったが,可視光による「直接S0→Tn遷移」を用いて反応条件をコントロールできるようになるとしている。

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