理科大ら,グラフェン表面水分子の動態を解明

東京理科大学,みずほ情報総研の研究グループは,データサイエンス的アプローチを用いて,理論計算により物質表面での水分子の挙動を解明した(ニュースリリース)。

研究グループはまず,古典的原理に基づいた分子動力学シミュレーションを行ない,さらに新しいデータ解析手法のパーシステントホモロジーというトポロジカルデータ解析を今回初めて物質表面上の水の構造解析に適用した。

分子動力学シミュレーションは,従来の古典力学の理論を用いて,多数の原子の運動を方程式から数値的に計算し,材料物性を評価し予測する方法。また,トポロジカルデータを用いた解析は,原子配置を空間内の点の集まりとみなし,その集合に含まれる点の重なり合いによって形成されるリングや空洞といった穴に着目するデータサイエンスの解析手法となる。

このような原子データの集合体を様々なスケールで特徴づける数学的な手法の一つが,パーシステントホモロジーと呼ばれる手法で,現在の機械学習的アプローチの一部として様々な分野に応用されている。

この研究では,様々な温度帯における分子動態のシミュレーションを行なったところ,低温および室温の両方で,グラフェンに対して垂直方向に複数の層構造を形成することがわかった。特に,一層および二層のモデルが顕著に出現した。

次に,それらの層平面の内部で,異なる水分子の水素間に形成される水素結合によるネットワークについて検討した結果,一層二層どちらのモデルでも四員環が多く,最も安定する平面構造であることが示された。

パーシステントホモロジー解析においては,層構造が厚くなると平面上のクラスター構造が変化することがわかった。さらに,温度の違いに起因する分子の運動性の差も明らかになったが,いずれの温度帯においても表層の一層目二層目にまたがって三次元の四面体状の複合体を構成していた。

頻度は低下するものの,三層目まではこうした四面体構造が顕著に見られた。しかし,それ以上の層では,四面体構造が自由運動の状態に近づいていくことを示唆する結果が得られた。

これらをより詳細に解析し,「水の新たな姿」を発見した。水分子は,まず,平面上に二次元水素結合ネットワークを形成する。さらに,一層目と二層目,二層目と三層目との間にも三次元の水素結合ネットワークを形成し,グラフェンとは反対側に底面を向けた四面体構造の複合体を形成することを明らかにした。

そして,それ以上深層のバルク水領域では,四面体構造が自由に回転運動をしていると考えられるという。このように,グラフェンと近接する界面の浅層と深層は,異なる分子ネットワークを構成していることが,上記の様々なシミュレーションから理論的に導き出された。

この研究結果により,これまで明らかになっていなかった水の実態の解明が進み,水があらゆる材料に及ぼす影響が材料開発などへの応用への重要な鍵となるとしている。

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