理研ら,警戒時の情報伝達物質動態を可視化

理化学研究所(理研),群馬大学,米カリフォルニア大学の研究グループは,神経活動を支えるグリア細胞の一つである「アストロサイト」の活性化様式は心理状態に応じて変化し,その導因は脳幹にあるノルアドレナリンを放出するノルアドレナリン作動性神経細胞にあることを発見した(ニュースリリース)。

アストロサイトにおける二次情報伝達物質の動態を測定するために,光刺激によってノルアドレナリンを選択的に放出するマウス実験系を作製し,ノルアドレナリン作動性神経細胞に光受容イオンチャネルのチャネルロドプシン2(ChR2)を発現させた。

ChR2は光によって活性化され,発現している神経細胞を興奮させる。また,カルシウムの蛍光プローブであるGCaMPとcAMPの蛍光プローブPink Flamindoを大脳皮質のアストロサイトに発現させ,2光子顕微鏡を用いて観察した。

大脳皮質に投射しているノルアドレナリン作動性神経細胞の軸索を光刺激したところ,二つの二次情報伝達物質であるアストロサイト内のカルシウム濃度とcAMP濃度は,それぞれ刺激時間に依存して異なる反応を示すことが分かった。

この違いの理由を調べるたところ,放出されるノルアドレナリンの量は,光刺激時間が長いほど多いことが分かった。これは,アストロサイト内のカルシウム反応に関わるα1受容体とcAMP反応に関わるβ受容体では,それぞれ活性化するためのノルアドレナリン量の閾値(下限)が異なることを意味している。

つまり,α1受容体の閾値の方がβ受容体よりも低いため,カルシウム濃度は短時間の光刺激で上昇するのに対し,cAMP濃度はより長い時間刺激を与えないと上昇しないことが示された。

次に,このメカニズムが覚醒状態の動物の心理にどのような変化をもたらすのかを調べた。予期不能なタイミングでマウスの顔面に空気を吹き付けると軽い驚愕反応が生じ,これに伴ってノルアドレナリンが放出され,アストロサイトのカルシウム濃度が上昇することが分かっている。

このマウス実験系を用いて,カルシウム濃度とcAMP濃度の同時測定を行なったところ,カルシウム濃度は上昇したが,cAMP濃度の上昇は見られなかった。この結果から,動物は軽い驚きを感じたときに少量のノルアドレナリンを放出し,アストロサイトのカルシウム濃度が上昇すると考えられるという。

この研究成果は,心理状態が影響を及ぼす記憶の定着メカニズムの解明に貢献するととともに,心的外傷を治療する上での重要な知見になるとしている。

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