北大ら,光共振ミラーで化学反応制御する技術開発

北海道大学,豪メルボルン大学の研究グループは,光共振器の中で分子の振動状態を変えることで,化学反応をコントロールする方法を開発した(ニュースリリース)。

化学反応を原子・分子スケールで制御することは,分子化学における大きな目標の1つとなる。これまで,有機反応をコントロールするために,反応部位を保護し反応しないようにする方法や,特定の部位を認識する触媒の開発が行なわれてきた。

現在も,薬剤から化学製品までさまざまな分子を合成する技術が研究されている。一方,量子物理の分野では,光共振器の中での光子と原子・分子の振る舞いに関する研究が進んでいる。

近年,この量子物理的現象を分子化学に応用する試みが始まっている。ごく最近では,光共振器中で分子の振動状態が変化することが発見された。この振動状態の変化が,化学反応にどのように影響するかは未解明の領域だった。

この課題を解決するために,研究グループは,2枚の反射ミラーが平行に向かい合った光共振器を作った。ミラー間の距離を変えると,ミラー間に存在しやすい光の波長が変わる。この光の波長を調整することで,共振器の中に存在しやすい光のエネルギーを調整できる。

一方,有機分子は固有の振動を持っており,光を吸収することで振動する。この研究では,カルボニル基をもつ有機分子を光共振器の中に入れた。その後,光共振器のミラーの距離を調整することで,共振器内の光のエネルギーと分子振動のエネルギーを一致させた。

この状態では,共振器中の真空場とカルボニル伸縮振動が光子を介して相互作用して混成状態(振動ポラリトン)を形成し,これにより振動ポラリトンのエネルギー準位が分裂するラビ分裂を観測した。ラビ分裂が起こった状態では,活性化エネルギーが10kJ/mol程度上昇しており,カルボニル基の反応性が低下していることを確認した。

この研究で開発した方法では,ミラーの距離を調整するだけで,望みの部位の反応性を変えることができる。また,この手法は幅広い分子に適用することができ,ある特定の部位の反応性を低下させることで,保護基を用いずに選択的に化学反応を進行させることが期待されるという。

今後,新たな反応コントロールの方法として反応器デバイスと組み合わせることで,化学製品,医薬品,機能性材料などの工業プロセスへの展開も期待されるとしている。

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