東工大ら,加熱だけで分子を環状トポロジーに変換

東京工業大学,科学技術振興機構(JST)の研究グループは,簡便な実験操作で,所望する分子骨格を環状のトポロジー(分子の形)へと変換する手法を開発した(ニュースリリース)。

分子量が中程度以上の環状高分子も含む環状分子は,古くから他の形状の分子とは異なる特異な機能・特性を発現することが知られている。しかし環状という特異なトポロジーは,その合成を困難にしており,純度よく大量に合成する手法の開発が望まれていた。

研究グループは,環化のプロセスを副反応なく,自発的かつ選択的に引き起こすために動的共有結合に着目した。中でも,熱によりその動的な特性を厳密に制御(on-off制御)することができる(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド骨格(BiTEMPS)は,以下の理由から研究を遂行する上で理想的な骨格であることを見いだした。

1)100℃以上の加熱により特定の共有結合が可逆的に均一開裂し,安定ラジカルを発生する動的特性「on」状態,また加熱しなければラジカルは発生せず安定な共有結合として振る舞う=動的特性「off」状態。
2)熱によって発生する安定ラジカルの官能基許容性は高いため種々の分子骨格に適用できる。
3)安定ラジカルの結合交換反応が非常に早く起こる。
4)加熱するだけで反応を誘起でき,酸素ケアや高価な触媒を必要としない。

以上のような特性を有する動的共有結合ユニットであるBiTEMPS骨格を,「環化させたい任意の構造」と重合反応させることで,共有結合で連結させ直鎖状高分子へと変換した。次に,得られた直鎖状高分子を希釈し,加熱することで,選択的かつ簡便に環状構造へとトポロジー変換させることに成功した。

つまり,動的な特性が「on」となる高温条件下において,他の外部因子(溶媒の種類や濃度)を適切に選択することで,所望する環状の形状へとそのトポロジーを変換させ,トポロジー変換後は,動的な特性が「off」となる100℃以下へと冷却することで,外部因子に応じて変形した環状のトポロジーを固定化することができる。

この手法は,所望の分子骨格を大量スケールで簡便に環化することができるため,従来にはない理想的な環状骨格の合成法と捉えることができるという。

また,環化する対象骨格を低分子とした場合,比較的高濃度条件(1g/100mLおよそ2mmol/L)においても環化反応を引き起こすことができ,さらにBiTEMPS骨格を1つのみ有する環状化合物を高収率で単離し,その構造をX線結晶構造解析により明確にすることにも成功した。

今回,開発した手法は酸素ケアや触媒が要らず,簡便な操作で行なうことができることから,幅広い分野での工業的な利用はもちろん,学術的にも環状骨格の詳細な機能・特性についてより詳細な解析が期待できるとしている。

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