理研,タンパク質の3Dプリンティング技術を開発

理化学研究所(理研)の研究グループは,フェムト秒レーザーを用いて,純粋なタンパク質からなる微小3次元構造体を造形する技術を開発した(ニュースリリース)。

フェムト秒レーザーの「多光子吸収」を利用した3Dプリンティングは「多光子造形」とも呼ばれ,100nm程度の極めて高い加工解像度で,ポリマーの3次元マイクロ・ナノ構造を造形できるため,広く研究開発されている。

最近,多光子造形はポリマーだけでなく,金属やタンパク質を造形できることが示された。特に,タンパク質の微小な3次元構造体は,再生医療などの細胞培養用の足場,バイオセンサー,マイクロアクチュエーターなどへの応用が期待されている。

タンパク質の多光子造形では,前駆体となるタンパク質分子に反応を促進するための光活性剤を混合したものが用いられる。しかし,光活性剤には毒性を持つものもあり,その光活性剤分子が造形した構造体中に混入する可能性があるという問題がある。

今回,研究グループは,タンパク質分子を純水で溶解した前駆体に,超短パルス・超高強度のフェムト秒レーザーを照射することで,タンパク質の3次元の微小構造体を造形する技術を開発した。

まず,タンパク質分子を純水で溶かした液をガラス基板上に滴下後,スピンコーターにより回転・乾燥し,薄膜状にした。この薄膜内部に,可視域のフェムト秒レーザーを集光照射し,集光点でのみ「多光子吸収」を起こすことでタンパク質分子同士を化学的に結合させた。そしてレーザー光の集光点を3次元に走査し,レーザー光の軌道に沿って化学結合を進展させた。

レーザー走査終了後,薄膜を純水で洗い流すと,レーザー光が照射されていない箇所は溶解され,照射領域だけが残り,設計どおりの形状の構造体が得られ,さらに,この構造体は他の分子が混入していない純粋なタンパク質であることを確認した。

今回開発した技術により,純粋なタンパク質の3次元微小構造体を造形することができ,さらに造形した構造体は,タンパク質本来の性質を保持している。

タンパク質には,異なった機能を持つ多種多様なものが存在するが,この技術は数多くの違った種類のタンパク質の造形に適用することができる。ある種のタンパク質は,周囲の雰囲気のpHに依存してその体積が変化する機能がある。この機能を利用して3次元構造体を造形すれば,マイクロアクチュエーターや焦点可変の光学素子への応用が可能になるという。

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