農工大ら,加熱処理向け無電極ランプを開発

東京農工大学とオーク製作所,テクノリサーチは,無電極発熱ランプをマイクロ波により遠隔加熱する半導体の急速加熱技術により,非晶質シリコン膜の高品質な結晶化を達成した(ニュースリリース)。

さまざまな製品の製造現場に欠かせない加熱処理の装置では,施された配線を通じて投入される大電力によってヒーター線が発熱し,対象を加熱する。環境への配慮が重視される現在,その省電力化が強く求められている。また,加熱装置は電極やヒーター線と電気配線との接続部にかかる大きな熱ストレスにより断線を生じ,定期的な部品の交換を必要とする問題も抱えている。

今回,研究グループは,カーボン粒子を石英管にアルゴンガスとともに封入した無電極ランプであるカーボン・ヒーティング・チューブ(CHT)を開発した。CHTにマイクロ波を照射すると,カーボン粒子がマイクロ波を吸収して発熱する。CHTは家庭用電子レンジの3分の1程度の200Wの電力で1279℃まで加熱され,均質な強い発光を示す。

CHTには電極がなく,配線を必要としないため,耐久性に優れている。また,配線を通じた熱の逃げが発生しないため,これまでにない省エネルギータイプの加熱ランプだとする。さらに,従来のランプやヒーターに用いられる高価なレアメタルを必要とせず,安価な製造も可能という。

今回,このCHTを無電極発熱ランプとして,半導体急速加熱装置を試作開発した。導波管を通して上部円筒・下部半球型のアルミニウム製筐体に導入されたマイクロ波は,筐体内に設置されたCHTに効率よく吸収される。さらに,赤外線放射温度計を用いてCHTの温度をリアルタイムに測定し,発振器のマイクロ波出力を制御する温度調整機能を実装した。

この加熱装置を用いて,長さ60mmのCHTの直下に石英ガラス基板上に形成した非晶質シリコン薄膜試料を設置し,駆動ステージを用いて試料を移動したところ,非晶質シリコン薄膜が加熱により結晶化し,試料全面の色が変化した。

分光反射率スペクトルとラマン散乱スペクトルの測定結果の解析から,試料全面に渡って均質な結晶化が達成されたこと,及びポリシリコン薄膜トランジスタに実用化されているレーザー結晶化膜に匹敵しうる0.92の高い結晶化率を持つ高品質な結晶化膜が形成されたことがわかったという。
 
研究グループは,今回の結果は,CHTを用いた加熱装置のさまざまな応用の可能性を示し,従来に無い新しい高効率発熱ランプとして,加熱装置の市場に低装置製造コスト,低ランニングコスト,低メンテナンスコスト製品の参入が期待できるとしている。

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