理研ら,従来よりも6倍明るいX線レーザーを開発

理化学研究所(理研)と高輝度光科学研究センターは,新しいX線光学技術「反射型セルフシード技術」を考案・開発し,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」において,従来よりも約6倍明るいX線レーザービームを作り出すことに成功した(ニュースリリース)。

SACLAなどのXFEL施設では,アンジュレータと呼ばれる磁石列に電子ビームを通すことでレーザー発振を実現している。アンジュレータに入射された電子は,磁石の磁場によって方向が曲げられることでX線を放射する。放射されたX線と電子ビームが相互作用することによって,電子はアンジュレータを通過している間に徐々にX線の波長間隔に並んでいく。その結果,それぞれの電子から位相がそろったX線が放射されるようになり,強力なレーザー光が得られる。

しかし,従来のXFELでは,アンジュレータに入射直後の電子ビームからさまざまな波長の光が放射されるために,最終的に得られるXFELは大きな波長広がりを持つという問題があった。

今回,研究グループは,「反射型セルフシード技術」と名づけた波長広がりが小さなXFELの発振法を考案した。この方法では,アンジュレータを前半・後半の二つの部分に分け,その間にシリコンでできた分光器を設置する。

この分光器の角度を適切に調整することで,前半のアンジュレータで発振したXFELを単色化する。そして,単色化したX線ビームを「種」として,後半のアンジュレータに入射する。後半のアンジュレータにおいて,この単色の種光を電子ビームと時空間で重ねることで,レーザー発振を実現する。これにより,従来とは異なり,波長広がりが小さなX線ビームからレーザー増幅が始まるために,最終的に発振されるXFELの波長幅が極めて狭くなる。

今回開発した分光器(2結晶分光器)に入射したX線は,第1結晶と第2結晶において2回の反射を経て単色化され,入射光と平行な向きへ出射される。その際,第1結晶と第2結晶の間隔が100μmしかないため,後半のアンジュレータにおける単色化された種光と電子ビームの時空間の重なりが容易に達成できるようになっている。

実際に,反射型セルフシード技術をSACLAに適用した結果,スペクトルを持つ波長幅が非常に狭いXFELの発振に成功した。従来のXFELと比較して,波長の広がりは約10分の1,X線の明るさを表す輝度は6倍という非常に明るいXFELが実現できた。

研究グループは,この技術によって格段に明るいXFELの利用が可能になり,XFELを利用した実験の飛躍的な効率化が期待できるほか,X線非線形光学現象の開拓などの新しい科学を切り開く原動力となることが期待できるとしている。

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