東大,水分子の異常性を分子レベルで解明

東京大学の研究グループは,水のダイナミクスの起源が,実はガラス転移とは無関係であり,エネルギー的により安定な正四面体構造がより多く形成されることに起因していることを明らかにした(ニュースリリース)。

水が4℃で密度の最大を示したり,結晶化の際に体積が膨張するなど,他の液体にない極めて特異な性質を持ち,それが気象現象,地球物理現象,生命現象などに大きなインパクトを与えている。

一方,水は,動的な性質にも大きな特異性を示す。例えば,通常,液体を加圧すると,分子はよりぎゅうぎゅう詰めになり運動が遅くなるが,水においては加圧により分子の運動が早くなることが知られている。また,通常の有機液体は,冷却していくとガラス転移点の50K程度上の温度から粘性が急激に上昇するが,水を冷却していくとガラス転移点より150K程度も上の温度から粘性の急激な上昇が始まる。

このような異常な挙動は,これまで,特殊なガラス転移現象として理解されてきた。有機液体のガラス転移点よりはるかに高温な室温付近の水は,温度低下に対し急激な粘性上昇を示すガラス形成物質(フラジャイル液体と呼ばれる)のようにふるまい,ガラス転移点付近の低温の水は,粘性の温度依存性がアレニウス則に従うガラス形成物質(ストロング液体と呼ばれる)のようにふるまうというのが従来の定説であった。

研究グループは,実はこの高温の水の異常な粘性の増大が,ガラス転移とは全く無関係であり,温度低下に伴い,エネルギー的により安定な正四面体構造がより多く形成されることに起因していることを,シミュレーションを用いて,分子レベルで明確な形で示すことに初めて成功した。

これにより,約20年前に提唱された「水は乱雑な構造と規則的な局所構造が動的に共存した状態である」という二状態モデルに基づく現象論の妥当性が微視的レベルで初めて示された。この成果は,従来のガラス転移に基づく水の動的異常性に関する定説を覆しただけでなく,水の熱力学的異常と動的異常が,ともに正四面体構造形成という共通の起源に基づくこと明らかにした点にも大きなインパクトがあるという。

また,同様な機構は,局所的に安定な構造,例えば正四面体構造や正二十面体構造を形成する傾向のある他の液体,例えば,シリカ,シリコン,ゲルマニウム,カーボン,カルコゲナイドガラス,金属ガラスなどで普遍的にみられる可能性がある。実際,これらの物質では,水と同様の動的異常性が報告されている。この成果は,生命科学,地球科学など広範な分野に波及効果が期待されるとしている。

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